今回は北海道新幹線速度向上の取組み状況について、北海道庁、国土交通省、JR北海道、JR東日本のWeb資料及びWikipediaの情報をもとに検討します。
<概略>
北海道新幹線は、青森県青森市から北海道旭川市までを結ぶ計画の高速鉄道路線いわゆる新幹線です。鉄道建設・運輸施設整備支援機構が鉄道施設を建設・保有し、JR北海道により運営されています。
北海道新幹線のうち青森市から札幌市の区間は、1972年に全国新幹線鉄道整備法第4条第1項の規定による『建設を開始すべき新幹線鉄道の路線を定める基本計画』により公示され、1973年11月13日に整備計画が決定された5路線。いわゆる整備新幹線の路線の一つです。国鉄の財政悪化により建設が一時凍結されましたが、2005年に新青森から新函館間で着工され、2016年3月に新青森駅から新函館北斗駅間が開業しました。青函トンネル、全長53.85 km、海底部23.30 kmを含む新中小国信号場から木古内駅間の約82kmの区間は三線軌条による在来線との共用区間です。未開業区間のうち新函館北斗駅から札幌駅間が2030年度末に開業する予定で、札幌市から旭川市間は1973年に基本計画が決定されていますが、着工の予定はありません。
今回は、北海道新幹線の速度向上対策を確認し、JR北海道が札幌延伸時の目標としている、東京から札幌間の所要時間4時間半の実現可能性について確認していきます。
<結論>
・現在行われている設備側の対策のみでは、東京から札幌間の所要時間はJR北海道の目標とする4時間半に届かない。
・東京から札幌間の所要時間が4時間半を切るには、車両側の速度向上が必須とみられる。
<北海道新幹線区間の速度向上対策>
・新函館北斗から札幌間
区間:北海道新幹線 新函館北斗・札幌間
最高速度:時速320km
費用負担:現計画(時速 260km)の工事費との差額をJR北海道が負担 (負担額は今後詳細設計による)
詳細(時速 320km で走行可能とするために追加で必要となる工事内容)
新函館北斗~札幌間約 212km のうち
○トンネル区間 約170km(80%)
約30箇所のトンネル坑口に設置される緩衝工を延長する
○それ以外の区間 約42km(20%)
約42kmのうち、約30kmが防音壁の嵩上げが必要となる区間
防音壁の嵩上げに伴い、高架橋の強度をあげる
工事費:約120億円 ※詳細設計等は、今後の実施段階において精査
時間短縮効果:5分程度
完成時期:2030年度(札幌延伸と同時)
・在来線との共用走行区間
青函トンネルを含む在来線との共用走行区間の82kmは、貨物列車とのすれ違いが発生するため、新幹線は開業時より時速 140km で運転していました。2019 年 3 月 16 日のダイヤ改正からは青函トンネル区間の54kmに 限り時速 160km に速度を向上して到達時分を4 分短縮しました。 2020年度には貨物列車の運転が少ない年末年始に、青函トンネル区間において、新幹線と貨物列車がすれ違わない時間帯を設定し時速 210km で営業運転、到達時分を更に 3 分短縮しました。
報道によると、今後さらに260 km/hに引き上げる計画で、2024年度中に繁忙期に限って運用を開始するとしており、約3分の時間短縮が見込まれています。
青函トンネル以外の供用区間は最高時速140kmのままであり、新青森から新函館北斗間の新幹線専用区間の最高時速は260km/hであることから、更なる速度向上が求められていますが、今のところ更なる速度向上の計画はありません。また、大型連休期間中のみの最高速度向上では、年間を通した利便性向上を見込めないことも課題となっています。
<東北新幹線区間の速度向上対策>
・盛岡から新青森間
速度向上の概要
最高速度:320km/h(現行:260km/h)
所要時間の短縮:最大8分程度
主な地上設備工事の概要
吸音板の設置:計約1.3㎞
防音壁のかさ上げなど:計約3.6㎞
トンネル緩衝工の延伸など:計約24 箇所
工事期間(予定)
2020年10月から概ね7年程度を目安としており、2028年頃に供用開始するとみられます。
・上野から大宮間
速度向上の概要
最高速度:上野から大宮間の埼玉県内で130km/h(現行:110km/h)
所要時間の短縮:最大1分程度
主な地上設備工事の概要
吸音板の設置や防音壁のかさ上げ
供用開始時期
130km/hへの最高速度引き上げによるダイヤの変更を、2021年春に実施済み。
<所要時間の見通し>
・東京から新函館北斗間
2024年度:青函トンネル供用区間の最高速度向上 210km/h → 260km/h
所要時間:3時間55分 → 3時間52分
2028年度:盛岡から新青森間の最高速度向上 260km/h → 320km/h
所要時間:3時間52分 → 3時間44分
・新函館北斗から札幌間
2012年時点での想定最高速度 260km/h
所要時間:約1時間5分
2030年度:札幌延伸開業時の最高速度向上 260km/h → 320km/h
所要時間:約1時間5分 → 約1時間
・東京から札幌間
現在実施中の速度向上対策工事化完了しても、札幌延伸開業時の東京から札幌間の所要時間は、約4時間44分とみられています。JR北海道の目標とする、4時間30分を達成するには、更なる速度向上が必要です。
<ALFA-X>
新幹線E956形電車は、2019年5月に登場した、JR東日本の新幹線用高速運転試験電車です。愛称は「ALFA-X」で、英語の『Advanced Labs for Frontline Activity in rail eXperimentation』(日本語訳:鉄道実験における最先端の活動を行うための先進的な試験室)に由来します。
JR東日本では、グループ経営ビジョン「変革2027」における「次世代新幹線開発」を、「さらなる安全性・安定性の追求」、「快適性の向上」、「環境性能の向上」、「メンテナンスの革新」の4つのコンセプトで進めています。2022年度以降、ALFA-Xにおいて、主に営業列車の走行する時間帯で開発品の耐久性の確認等を目的とした走行試験を行っています。
1.2022年度以降の走行試験の概要
(1)走行試験の目的
2019年5月から2022年3月までの走行試験において、安全性・安定性や快適性、環境性能、メンテナンス性の向上を目的とした各開発品の性能を確認してきました。今後は、地震対策をはじめとした、各種開発品の耐久性確認のほか、車内におけるお客さまサービスの研究開発、将来の自動運転を実現するための基礎的な研究開発等を目的とし、走行試験を実施します。
(2)走行試験の概要
2022年度からは、主に営業列車が走行している時間帯で走行試験を行います。走行区間は主に東北新幹線の仙台から新青森間とし、試験内容によりその他の区間を走行する場合もあります。※営業時間帯における走行は、沿線騒音が現状より悪化しないように配慮した速度とします。※当面の間は、最高速度を営業列車と同じ速度とします。
2.2019年5月から2022年3月までの走行実績
走行試験日数:計182日、走行距離:約14.5万キロ
ALFA-Xの試験結果を基に、最高時速360kmの営業運転が可能な営業車両の開発を目指しており、開発が順調に進めば、JR北海道の目標とする、東京から札幌間の所要時間が4時間30分を切ることが可能になるとみられます。
<まとめ>
・新函館北斗から札幌までの最高速度が320km/hに向上しても、短縮時間は5分程度。
・青函トンネル内の速度向上は、大型連休期間に限られ、利便性向上効果は限定的。
・新青森から新函館北斗間の最高速度は、在来線との供用区間の影響で当面320km/hにならないとみられる。
・現在行われている速度向上対策工事が完了しても、東京から札幌までの所要時間はJR北海道の目標とする4時間半を切れない。
・東京から札幌までの所要時間をJR北海道の目標とする4時間半を切るには、車両側の速度向上が必須となり、ALFA-Xの開発の行方が注目される。
-以上-
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