今回は、首都高速都心環状線の撤去・再構築案について、首都高速の再生に関する有識者会議の提言書及び、Wikipediaの情報を基に検討します。
<概略>
首都高速都心環状線は、東京都の千代田区、中央区、港区を環状に通る首都高速道路の路線です。全長約14.8キロメートルで、日本橋の真上を起終点とする東京都の最都心部を一周する環状線です。主に各放射線同士を接続する役割を担い、環状部分に加えて、京橋JCTで分岐する東京高速道路への接続部分についても、延長が0.1 kmと短く、標識等が煩雑となることから、都心環状線の一部として案内されています。
都心を通過する必要性の薄い車両の乗り入れを減少させるべく、中央環状線の建設が進められ、2015年3月7日に全線が開通したことで、以前と比べて都心環状線の混雑状況は大きく改善されているものの、朝夕時間帯など交通量ピーク時には渋滞することも珍しくありません。
首都高速の再生に関する有識者会議の提言書によれば、様々な角度から検討を行った結果、2012年9月に以下のような提言が行われています。「老朽化した首都高速都心環状線は、高架橋を撤去し、地下化などを含めた再生を目指す」、「首都・東京の道路ネットワーク、首都直下型地震への対応という観点から、国家プロジェクトとして再生を行う」、「民間の活力を生かし、単なる高速道路の整備に終わらない、世界都市・東京を発信する」。
今回は、この首都高速の再生に関する有識者会議の提言書について、詳しく確認していきます。
<結論>
・現在行われている都心環状線の老朽化対応は、単なる地下化やリプレースにすぎない。
・国は有識者会議の提言をふまえ、都心環状線の将来構想を主体的かつ具体的に検討すべき。
<首都高速の再生の必要性>
■首都高速の老朽化の進展
・首都高速の総延長約300kmのうち、経過年数40年以上の構造物が約3割、30年以上が約5割となっており、老朽化が進展しています。
・また、首都高速の橋梁やトンネルなどの構造物比率が約95%と高い中、都区内一般道の5倍の大型車が通行しており、過積載車両も年間約35万台が計測されるなど、過酷な利用環境にあります。
・このような環境から、計画的な補修を実施しているものの、補修が必要な損傷が7年で約3倍の9.7万件に増加するなど、構造物の劣化状況が厳しくなっています。
・東日本大震災のような巨大地震の発生という不測の事態においても安全性がしっかり担保されるよう、老朽化した首都高速の再生について、検討すべき時期に来ていると言えます。
■安全な高速走行についての課題
・首都高速は、既存の道路、河川等の上空を活用して整備を進めてきたことから、急カーブなどが多数存在しており、都心環状線の延長の20%が設計速度50km/h以下であるなど、設計速度が低くなっています。
・また、用地制約などにより、分合流の方向も統一できなかったことから、短い区間に左右両方向からの分合流が連続し、加減速車線も短いことなどから、安全な高速走行に課題があります。
首都高速の死傷事故率は、一般国道の約1/3ではあるものの、他の自動車専用道路と比較すると約2.5倍となっており、交通安全上にも課題があります。
■都市環境への影響
・建設当時は、先進都市の象徴となる道路として評価された首都高速ですが、今日的な視点から再検討が必要となっています。
・歴史的建造物等が点在する都心部の中で、首都高速の高架橋は周辺に圧迫感を与え、都市景観を阻害しています。
・また、増大する自動車交通により深刻化した騒音、大気汚染などの環境問題は、改善傾向にあるものの、依然として環境基準を達成していない状況にあります。
・江戸時代に築かれた外堀などの水辺空間の多くが、戦災復興のがれき処理により埋め立てられました。その後も、東京オリンピックに合わせて建設された首都高速により、埋め立てや日本橋川などの河川の上空が占用され、貴重な水辺空間を喪失させています。
■首都直下型地震への対応
・首都直下型地震では、首都中枢機能の障害による影響や、膨大な人的・物的被害の発生が想定されています。
・そうした中で、首都高速をはじめとした高速道路は、地震発生後の緊急輸送を担う道路(緊急輸送道路)として、機能を発揮することが重要です。
<ロータリークラブからの提案>
■基本方針
首都高速都心環状線を地下化することにより、「安全・安心で」「環境に良く」「文化価値を回復して」、首都「東京」及び日本の魅力度・競争力強化を実現する。
■計画概要
新都心線約50.4kmを建設する計画で、建設費を約3.8兆円と試算しています。築40年を経過した老朽部分を代替えする新都心線を建設し、河川及び通りを覆う高架構造物は撤去します。早急な建設と用地取得費軽減を考慮し、道路等の公共施設の地下を通し、新設区間にはランプを21か所建設します。これにより、中央環状線内のランプが47か所から28か所に減少します。新しく建設する高速道路の耐用年数は100年としています。
■財源について
首都高速の既存債務、新都心線建設費用、追加補修費の合計約9兆円を、利用者負担と民間活用等で賄える計算です。
<再生の将来像>
■首都高速の再生を検討する上での前提条件
首都高速の再生の検討にあたっては、老朽化対策を確実に実施する取組であることが必要となります。さらに、慢性的な渋滞等の交通問題が発生している首都・東京において、交通の円滑化など、望ましい交通の姿を実現していくべきです。このためには、環状道路ネットワークの早期整備とともに、再生を機に、従来同様の首都高速の利用を前提にするのではなく、都心部への流入を調整するようなソフト施策(例:都心部を迂回することが不利にならないような料金施策)や関連する様々な諸制度、更には世界都市・東京にふさわしい新たな技術の活用の検討を組み合わせて取組むことが必要です。
■首都高速の再生の検討対象範囲
ロータリークラブの提案、首都高速会社における大規模更新の検討状況などを踏まえ、概ね中央環状線の内側に位置する、都心環状線とその関連区間を対象に検討することとされています。
■将来像の方向性
将来像として「都心環状線の高架橋を撤去するとともに、代替路線を再構築する案」を設定し、参考として、「都心環状線の高架橋を撤去し代替路線を再構築しない案」、「現状のままで更新する案」と比較した結果、撤去・再構築案が優位となりました。
このことから、将来の方向性として都心環状線の高架橋を撤去し、地下化などを含めた再生を目指し、その具体化に向けた検討を進めるべきと結論付けています。
計画の具体化に向けた留意点は、撤去や再構築の範囲などには、様々なバリエーションが考えられ、首都・東京の生活や経済に大きな影響を与えることが想定されることから、計画の具体化にあたっては、環境や渋滞への影響も含めて詳細な分析・検討を実施すべき。再構築にあたっては、都心部の土地利用の高度化が進んでいることや、首都直下型地震への対応を考慮して、用地買収のいらない大深度地下の活用についても検討すべきことが挙げられています。
<今後の進め方>
・国は主導して、地方公共団体や首都高速会社と連携し、国家プロジェクトとして、計画の具体化に取組むべきです。
・再生については、環状道路ネットワークの形成に併せて行われることになりますが、これを待つことなく、直ちに再生計画の具体化に取組むべきです。
・計画の具体化にあたっては、住民、道路利用者など幅広い主体と情報を共有し、理解を深めながら進めるべきです。また、都市再生プロジェクトとの連携については、民間のアイディアも積極的に取り入れるべきです。
・必要な事業費の負担については、計画の具体像に応じて、決定すべきですが、厳しい財政状況の中では、税金に極力頼らず、料金収入を中心とした対応を検討するべきです。
・比較的条件が整っている築地川区間などをモデルケースとして、再生のあり方、費用などについて直ちに検討を進めるべきです。
<まとめ>
・老朽化した首都高速都心環状線は、高架橋を撤去し、地下化などを含めた再生を目指すことが提言されています。
・首都東京の道路ネットワーク、首都直下型地震への対応という観点から、国家プロジェクトとして再生を行う必要があると提言されています。
・民間の活力を生かし、単なる高速道路の整備に終わらない、世界都市・東京を発信するべきと提言されています。
・都心環状線の老朽化対策が始まっていますが、どの様なビジョンで再生が行われるか明らかになっておらず、現状行われている事業は単なる地下化やリプレースにすぎない。
・国は有識者会議の提言をふまえ、都心環状線の将来構想を主体的かつ具体的に検討すべき。
―以上―
コメント