リニア中央新幹線【静岡工区有識者会議の状況】

 今回はリニア中央新幹線の静岡工区有識者会議の状況について、国土交通省と静岡県のWeb資料及びWikipediaの情報をもとに検討します。

<概略>

 中央新幹線は、東京都から大阪市に至る新幹線の整備計画路線です。日本政府による整備計画における正式名称は「中央新幹線」ですが、新幹線で初となる超電導リニアを採用する路線であることから、JR東海が開設した解説ウェブサイトや報道などでは「リニア中央新幹線」という通称でも呼ばれています。

 品川から名古屋間の2027年の先行開業を目指しており、2014年12月17日に同区間の起工式が行われました。完成後は東京都の品川駅から名古屋駅間を最速で40分で結ぶ計画です。ただし、JR東海は大井川の流量減少への懸念を理由とした静岡県のトンネル着工反対などにより、2027年開業は困難との見解を2020年7月時点で示しています。

 国土交通省は、リニア中央新幹線静岡工区について、これまで静岡県とJR東海との間で行われてきた議論等を科学的・工学的に検証し、その結果を踏まえて今後のJR東海の工事に対して具体的な助言、指導等を行っていくための、「リニア中央新幹線静岡工区 有識者会議」を2020年から開催していますが、着工の目途は立っていません。

<結論>

・大井川の水資源については影響が少ないことが確認されたが、水の戻し方や環境保全について継続審議されている。

・山梨県側からの高速長尺先進ボーリングが実施されれば、着工に近づく可能性も。

<リニア中央新幹線着工の経緯>

2010年2月24日 交通政策審議会への諮問(国交大臣)

2011年5月12日 交通政策審議会からの答申

「営業主体、建設主体をJR東海、走行方式を超電導リニア方式、ルートを南アルプスルートとすることが適当」

2011年5月20日 営業主体、建設主体の指名(国交大臣)

2011年5月26日 整備計画の決定(国交大臣)

・走行方式:超電導磁気浮上方式

・最高設計速度:505km/h

・建設費用の概算:90,300億円

・主要な経由地(甲府市附近、赤石山脈(南アルプス)中南部、名古屋市附近、奈良市附近)

2011年5月27日 建設の指示(国交大臣→JR東海)

2011年6月~2014年8月 環境影響評価

○2014年3月静岡県知事意見(環境影響評価準備書に対する意見)

・工事中のみならず、供用後についても大井川の流量を減少させないための環境保全措置を講ずること。

・工事中はもとより、供用後も見通した環境保全措置を講じ、南アルプスの自然環境への理解及び保全への最大限の配慮を求める。

○2014年7月国土交通大臣意見(環境影響評価書に対する意見)

・工事実施前から、河川流量の把握を継続的に行うとともに、工事実施中から工事実施後の適切な時期までモニタリングを実施すること。

・水利用に影響が生じた場合は、専門家等の助言を踏まえ、適切な環境保全措置を講じること。

2014年10月17日 工事実施計画の認可(国交大臣→JR東海)

2014年12月17日 着工(JR東海)

<南アルプストンネル静岡工区の概要>

南アルプストンネル25.0kmのうち、静岡県を通るのは10.7kmです。そのうち、静岡工区は、静岡県内の8.9kmの区間となっています。トンネルの主要な構造物は、先進抗と本坑の2本が計画されており、非常口は千石非常口と西俣非常口の2か所が設けられる計画です。また、椹島排水口までの導水トンネル掘削も計画されています。

<静岡県の指摘する課題>

2021年5月21日時点

環境影響評価における主な課題

①中下流域の地下水への影響(有害物質の管理を含む)

②県境付近のトンネル工事による工事中の湧水の大井川水系外への流出

③ 地下水位の低下、沢枯れ、河川流量の減少、湧水の河川への戻し方による、希少種を含む生態系への影響

④ 大量に発生するトンネル掘削土の処理に伴う土砂や濁水、重金属等の流出等による生態系や生活環境への影響

⑤ トンネル掘削による湧水量や地下水位の変化の予測精度

有識者会議 ~第11回までの「議論の成果」と「議論が必要な主な課題」~

課題① 県境付近のトンネル湧水の予測・評価

課題② トンネル湧水が県外流出した場合の河川流量の変化

課題③ トンネル湧水を大井川に全量戻すための現実的な方法の検討

 水のモニタリング方法や戻し方、および環境保全の方法には議論の余地があるとの認識。

<静岡工区有識者会議>

 国土交通省は、リニア中央新幹線静岡工区について、これまで静岡県とJR東海との間で行われてきた議論等を科学的・工学的に検証し、その結果を踏まえて今後のJR東海の工事に対して具体的な助言、指導等を行っていくための、「リニア中央新幹線静岡工区 有識者会議」を開催してきました。

 2020/4/27~2021/12/19の間に、水資源に関する討議が行われ、中間報告が出されました。それによると、工事期間中のトンネル湧水の県外流出の影響は、トンネル湧水量の全量を大井川に戻すことによって、中下流域の河川流量は維持されることを確認し、また、中下流域の河川流量が維持されることでトンネル掘削による中下流域の地下水量への影響は、河川流量の季節変動や年毎の変動による影響に比べて極めて小さいと推測されることを確認した。と記載されており、南アルプストンネル掘削による、静岡県の水資源への影響が小さいことが予測されています。

 工事中に静岡県外に流出した水を全量戻すことも確認されていますが、全量戻しの方法について、JR東海より田代ダムの取水を削減する案などが提案されていますが、静岡県は納得しておらず、合意の見通しは立っていません。

 2022/6/8からは、環境保全(生態系や生物多様性)に関する討議が行われていますが、解決の見通しは立っていません。

<山梨県側区間からのボーリング調査>

 山梨・静岡県境付近の断層帯を上向きに掘削する際に山梨県側に流出するトンネル湧水について静岡県との対話が続くなか、流域市町から地域の懸念を解消すべく技術的なデータに基づく議論を求める声が高まっています。山梨県と静岡県境付近の断層帯については、 2012年度に静岡県側の東俣付近からの斜めボーリングを行いました。調査は東俣付近から開始し、県境から静岡県側に約300mの地点まで実施しましたが、調査の終点から県境までの区間ではボーリング調査を行っていません。そのため、山梨県から静岡県境に向かって水平方向に地質などを調べる「高速長尺先進ボーリング」を行うことがJR東海より提案されていますが、静岡県との合意の見通しはありません。報道によれば、大井川下流域の自治体から、この調査の実施を求める声も上がっています。

<まとめ>

・大井川の水資源問題については、有識者会議の中間報告により影響が少ないことが確認され、トンネル掘削により静岡県外に流出した水を全量戻すことが確認されています。

・全量戻しの方法は、JR東海より田代ダムの取水を削減する案などが提案されていますが、静岡県は難色を示しています。

・現在、有識者会議では生態系や生物多様性の問題が議論されていますが、解決の見通しは立っていません。

・JR東海が計画している、山梨県側からの高速長尺先進ボーリングが実施されれば、地質のデータが得られることから、着工に近づく可能性もある。

-以上-

コメント

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です