今回はリニア中央新幹線の品川から名古屋間の工事進捗について、JR東海とリニア中央新幹線建設促進期成同盟会のWeb資料及びWikipediaの情報をもとに検討します。
<概略>
中央新幹線は、東京都から大阪市に至る新幹線の整備計画路線です。日本政府による整備計画における正式名称は「中央新幹線」ですが、新幹線で初となる超電導リニアを採用する路線であることから、JR東海が開設した解説ウェブサイトや報道などでは「リニア中央新幹線」という通称でも呼ばれています。
高速輸送を目的としているため、直線的な経路で最高設計速度505 km/hの高速走行が可能な超電導磁気浮上式リニアモーターカー、「超電導リニア」により建設されます。2011年5月26日に整備計画が決定され、営業主体および建設主体に指名されていたJR東海が建設すべきことが同年5月27日に定められました。
首都圏から中京圏間の2027年の先行開業を目指しており、2014年12月17日に同区間の起工式が行われました。完成後は東京都の品川駅から名古屋駅間を最速で40分で結ぶ計画です。ただし、JR東海は大井川の流量減少への懸念を理由とした静岡県のトンネル着工反対などにより、2027年開業は困難との見解を2020年7月時点で示しています。
東京都から大阪市の間をほぼ直線で結んだ経路が予定され、それによると経由地は山梨県甲府市附近、南アルプスの赤石山脈中南部、愛知県名古屋市附近、奈良県奈良市附近とされており、東海道新幹線のバイパス路線としての性格を強く持ちます。国鉄は1972年からリニアモーターカー、後の超電導リニアの開発に着手しました。当初、リニアモーターカーによる超高速新幹線として第二東海道新幹線が構想されていましたが、中央新幹線の計画と統合されました。そのため、中央新幹線はリニア方式で建設され、リニアモーターカーは中央新幹線で実用化されると考えられてきました。なお、新幹線の基本計画路線であり、2011年5月には整備計画も決定されましたが、整備新幹線には含まれません。今回は、品川から名古屋間の工事進捗について確認していきます。
<結論>
・静岡県を除く各県の工事は進んでおり、工事の進捗に大きな障害は無い。
・全体の約4%に当たる静岡県の10.7kmのみが未着工のまま取り残される見込み。
<整備計画の内容>
建設線:中央新幹線
区間:東京都・大阪市
走行方式:超電動磁気浮上方式
設計最高速度:505km/h
建設に要する費用の概算額(車両費を含む):90,300億円
主要な経過地:甲府市附近、赤石山脈(南アルプス)中南部、名古屋市附近、奈良市附近
<品川・名古屋間工事実施計画の概要>
区間:品川・名古屋間
駅:品川駅、神奈川県(仮称)駅、山梨県(仮称)駅、長野県(仮称)駅、岐阜県(仮称)駅、名古屋駅の6駅
路線延長:285.6km
工事費:70,400億円(2021年4月見通し)
完成予定時期:2027年
路線距離(実キロ):285.6km
複線区間:全線複線
電化区間:全線電化(交流 33,000V)
走行方式:超電導磁気浮上方式
最高設計速度:505 km/h
最小曲線半径:8,000m
最急勾配:40‰
車両基地:関東車両基地(仮称。神奈川県相模原市緑区鳥屋)および中部総合車両基地(仮称。岐阜県中津川市千旦林)の2か所
構造種別延長割合:路盤、2% (4.1km)。橋梁、4% (11.3km)。高架橋、8% (23.6km)。トンネル、86% (246.6km)。
<東京都の路線概要と工事状況>
・構造種別
地上部:0km
トンネル:19.4km(うち18.0kmは大深度地下区間)
駅:1箇所(島式ホーム2面4線の駅が、新幹線駅直下の地下40m程度の位置に設けられる計画です。)
変電施設:1箇所
非常口:5箇所(都市部)
・工事
品川駅:薬液注入工事、地中連続壁工事
北品川非常口:第一首都圏トンネルの掘進工事
目黒川変電所:躯体構築工事
東雪谷非常口:躯体構築工事
小野路非常口:第一首都圏トンネルの掘進に向けた工事
上小山田非常口:掘削工事
<神奈川県の路線概要と工事状況>
・構造種別
地上部:1.3km
トンネル:38.1km(うち16.3kmは大深度地下区間)
駅:1箇所(島式ホーム2面4線の駅が、橋本駅付近の地下30m程度の位置に設けられる計画です。)
車両基地:1箇所
変電施設:1箇所
保守基地:1箇所
保守用車留置施設:1箇所
非常口:5箇所(都市部)、4箇所(山岳部)
・工事
等々力非常口:躯体構築工事
梶ヶ谷非常口:シールドマシン組立工事
犬蔵非常口:底盤構築工事
東百合丘非常口:シールド準備工事
片平非常口:地中連続壁工事
神奈川県駅:掘削工事
相模川橋りょう及び変電所:準備工事
津久井トンネル:斜坑掘削工事
長竹非常口:斜坑掘削工事
大洞非常口:藤野トンネル本坑掘削工事
<山梨県の路線概要と工事状況>
・構造種別
地上部:27.1km
トンネル:56.3km
駅:1箇所(島式ホーム2面4線の駅が、甲府市大津町附近の地上20m程度の位置に設けられる計画で、在来線との接続はありません。)
変電施設:3箇所
保守基地:3箇所
非常口:9箇所(山岳部)
・工事
都留変電所:建築工事
境川変電所:建築工事
笛吹川・濁川橋りょう:ケーソン設置工事
小井川線路橋:橋脚工事
臼井阿原高架橋:橋脚工事
常永川橋りょう:橋脚基礎工事
釜無川橋りょう:橋脚基礎工事
利根川公園部高架橋:上部工事
第一南巨摩トンネル:本坑掘削工事
高下保守基地・変電所:造成工事
早川東非常口:第四南巨摩トンネル本坑掘削工事
早川非常口:南アルプストンネル先進坑掘削工事
広河原非常口:先進坑掘削工事
<静岡県の路線概要と工事状況>
・構造種別
地上部:0km
トンネル:10.7km
非常口:2箇所(山岳部)
・工事
静岡県から河川占用許可が下りないため、トンネル本体関連工事は行われておらず、着工の見通しは立っていない。
<長野県の路線概要と工事状況>
・構造種別
地上部:4.4km
トンネル:48.5km
駅:1箇所(島式ホーム2面4線の駅が、飯田市上郷附近の地上0~15m程度の位置に設けられる計画で、在来線との接続は計画されていません。)
変電施設:2箇所
保守基地:1箇所
非常口:11箇所(山岳部)
・工事
釜沢非常口:南アルプストンネル本坑掘削工事
除山非常口:先進坑掘削工事
小渋川非常口:南アルプストンネル本坑掘削工事
青木川非常口:伊那山地トンネル本坑掘削工事
坂島非常口:斜坑掘削工事
戸中非常口:伊那山地トンネル本坑掘削工事
天竜川橋りょう:橋脚工事
黒田非常口:ヤード整備工事
中央アルプストンネル:本坑掘削工事
萩の平非常口:村道改良工事
広瀬非常口:ヤード整備工事
尾越非常口:ヤード整備工事
<岐阜県の路線概要と工事状況>
・構造種別
地上部:6.5km
トンネル:48.6km
駅:1箇所(島式ホーム2面4線の駅が、中津川市千旦林の美乃坂本駅附近、地上20m程度の位置に設けられる計画です。)
車両基地:1箇所(工場、保守基地含む)
変電施設:2箇所
非常口:7箇所(山岳部)
・工事
山口非常口:中央アルプストンネル本坑掘削工事
第一木曽川橋りょう:工事用道路整備工事
瀬戸非常口:斜坑掘削工事
第二木曽川橋りょう:工事用道路整備工事完成
駒場トンネル:ヤード整備工事
中部総合車両基地:先行盛土工事
岐阜県駅:橋脚基礎工事等
長島トンネル:本坑掘削工事
南垣外非常口:日吉トンネル本坑掘削工事
美佐野トンネル:工事用道路整備工事
大森非常口:斜坑掘削工事
大針非常口:斜坑掘削工事
<愛知県の路線概要と工事状況>
・構造種別
地上部:0km
トンネル:24.8km(うち約20kmは大深度地下区間)
駅:1箇所(島式ホーム2面4線の駅が、既存名古屋駅とクロスする形で、駅直下の地下30m程度の位置に設けられる計画です。)
変電施設:1箇所
保守基地:1箇所
非常口:4箇所(都市部)、1箇所(山岳部)
・工事
西尾非常口:第一中京圏トンネル本坑掘削工事
坂下非常口:第一中京圏トンネルシールド掘進準備工事
神領非常口:ニューマチックケーソン工法による掘削沈下完了
勝川非常口:掘削工事
第一中京圏トンネル:シールドマシン組立工事
名城変電所:内装工事
名古屋駅:地中連続壁工事等
<まとめ>
・品川駅と仮称神奈川県駅及び名古屋駅は地下駅、その他の駅は地上駅とする計画で、全ての駅が島式ホーム2面4線の構造となる計画です。
・仮称山梨県駅と仮称長野県駅は在来線との接続はされない見通しです。
・全体の86%がトンネルであり、完成しても車窓を楽しむことはほとんどできない。
・静岡県を除く各県の工事は進んでおり、工事の進捗に今のところ大きな障害は無いとみられる。
・静岡工区は着工の目途が立っておらず、全体の約4%に当たる静岡県の10.7kmのみが未着工のまま取り残される見込み。
-以上-
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