今回は、2020年に損傷した上関大橋について、山口県のWeb資料と山口県観光サイト及びWikipediaの情報をもとに検討します。
<概略>
上関大橋は、山口県の瀬戸内海側にあり、長島と本州とを結ぶ唯一の陸路で、室津、上関間の海峡は170mです。昔から防長の三海関の一つに数えられており、現在でも1日約千隻の船が通過しています。海峡を結ぶ上関大橋は、1969年6月に完成したもので、付近は、旧砲台跡、毛利水軍本陣跡、城山跡などの史跡がある景勝地となっています。
2020年11月14日の午後8時に、上関大橋が損傷して室津側の主桁端部が浮き上がり、路面に200mm程度の段差が発生し、そこに乗用車一台が衝突する事故が発生しました。その後の調査で、接続部分がずれている事が確認されました。橋は上下線とも全面通行止めとなりましたが、翌年3月26日午前5時に全面解除されています。なお、この上関大橋は過去にも、2006年2月の調査にて長島側で鋼材の破断が見つかったことがその後の調査で発覚しました。
上関大橋は、2022年3月25日に本復旧工事が完了し、特殊車両についても審査の上、通行が可能となっています。今回は、上関大橋復旧検討会議の報告書をもとに、復旧の経緯について検討します。
<結論>
・事故のきっかけとなった段差発生の原因は、浸水による腐食で桁を固定していた鉛直PC鋼棒の破断が原因とみられる。
・グラウンドアンカーによる橋桁の再固定化工事が完了し、特殊車両の通行制限は無くなった。
<橋梁諸元>
路線名:山口県道23号光上関線
所在地:山口県熊毛郡上関町
架設年:1969年
橋名:上関大橋
橋種:プレストレストコンクリート道路橋
橋格:二等橋
工法:ディビダーグ工法
形式:箱型断面3径間有ヒンジ片持梁(ドゥルクバンド形式)
橋長:220.000m
支間:39.990 m + 140.000 m + 39.990 m
幅員:0.75 m (歩道部)×2 + 6.5 m (車道部)
横断勾配:2 % 放物線勾配
縦断勾配:6 % 直線勾配, 放物線勾配
<損傷と事故の概要>
2020年11月14日(土)午後8時頃
・室津側の主桁端部が浮き上がり、路面に200mm程度の段差発生
・段差に乗用車1台が衝突
<段差発生の原因>
上関大橋復旧検討会議の報告書によると、鉛直PC鋼棒全18本のうち13本の破断を確認し、桁全体が均一に浮き上がっていることから、全18本の鉛直PC鋼棒が破断したことにより、段差が発生したと推定しました。鉛直PC鋼棒の破断原因は、破断した13本について、外縁の一点を起点に放射状の模様を確認したことから、鉛直PC鋼棒が全面的に腐食している中で、一部の孔食と推定される減肉部を起点に脆性破断した可能性があると推定しました。腐食の原因は、浸水の可能性が高いと考えられています。
<橋の変形形状>
・路面に著しい折れ曲がり等は見られない
・A2橋台部が200mm程度上方へ変形
・中央ヒンジ部で200mm程度の垂れ下がり
<応急復旧>
山口県は、地震等の影響による致命的な状態を避けるための対策を2021年3月に完了しました。中央ヒンジ部の移動抑制工事として、中央ヒンジ部にPCケーブル、直径46㎜を4本設置し、橋桁の移動を抑制しました。また、桁端部の固定化工事として、グラウンドアンカー直径62㎜、長さ18m、4本を、室津側の主桁端部に設置しました。
<本復旧対策>
上関大橋復旧検討会議の第4回会議によると、現状と課題は、以下の2点があげられています。
・桁が浮き上がったことにより、A2橋台側の桁がA1橋台側の桁にモタレかかった状態では、橋全体の応力状態の推定には限界があり、応力状態の把握が困難な状況。
・水平PC鋼棒が塑性変形している可能性があり、状態が把握できないこのような状態では、将来的な安全が保証されない。
復旧方針としては、監視と通行規制による管理の状態から、安全性を向上させ、他の橋と同様に定期点検やパトロール等により、管理ができる状態に戻すこと。とされています。また、これまで監視できなかったアンカー等の状況も監視できる状況にすることが求められています。
この上関大橋復旧検討会議第4回の提言を受け、山口県はグラウンドアンカーによる桁の再固定化工事に着手し、2022年3月に完了させました。この結果、応力状態の把握が容易になり、特殊車両についても審査の上、通行が可能となっています。2022年度から、P2橋脚や桁端部の補強工事等を実施しています。
<まとめ>
・事故のきっかけとなった段差発生の原因は、浸水による腐食で桁を固定していた鉛直PC鋼棒が破断し、桁全体が均一に浮き上がったためとみられる。
・桁が浮き上がったことにより、A2橋台側の桁がA1橋台側の桁にモタレかかった状態で、橋全体の応力状態の把握が困難な状況だった。
・グラウンドアンカーによる橋桁の再固定化工事が2022年3月に完了し、特殊車両の通行制限が無くなった。
・2022年度から、P2橋脚や桁端部の補強工事等を実施している。
-以上-
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