今回は西九州新幹線の新鳥栖から武雄温泉間について、佐賀県と国土交通省のWeb資料及びWikipediaの情報をもとに検討します。
<概略>
整備新幹線としての九州新幹線西九州ルートは1972年12月12日、全国新幹線鉄道整備法第4条第1項の規定による『建設を開始すべき新幹線鉄道の路線を定める基本計画』により告示され、1973年11月13日に整備計画が決定された5路線のうちの一つです。整備計画決定以降も、ルートや整備方式や佐賀県の費用負担をめぐって様々な曲折があり、着工には至っていませんでしたが、上下分離方式により並行在来線を九州旅客鉄道から経営分離しない方針が示されたため、2008年に武雄温泉から諫早間が着工されました。その後、新鳥栖から武雄温泉間は在来線を活用し、軌間の異なる在来線の狭軌と新幹線の標準軌を直通できる軌間可変電車、いわゆるフリーゲージトレインを導入する方針が決定され、2012年には諫早から長崎間が着工されました。この時点では、博多から新鳥栖間は九州新幹線を通る予定とされていました。武雄温泉駅から長崎駅間は2022年9月23日に開業しました。
一方で、フリーゲージトレインの開発が難航し、2022年の開業時点では、武雄温泉駅で在来線と新幹線を対面乗り換えで乗り継ぐリレー方式がとられています。またJR九州は、車両や保守費用が割高かつ度重なる改良にも関わらず軌道負荷過大などの問題解決に見通しがつかないフリーゲージトレインの導入を断念し、全線フル規格での建設を求める方針を示しました。このような状況を踏まえて、2022年から新幹線工事未承認区間の、九州新幹線鹿児島ルートとの分岐点である新鳥栖から武雄温泉間の整備方式や佐賀県の費用負担について、フル規格新幹線、ミニ新幹線方式、フリーゲージトレイン、スーパー特急方式、武雄温泉駅での対面乗り換えを含めた整備方式の検討が行われていますが、合意には至っていません。
<結論>
・議論は停滞しており、当面の間、新鳥栖から武雄温泉間に新幹線が整備されることは無い。
・何を目的に新幹線を整備するのか合意した後、同じ目標を目指して議論を進める必要がある。
<これまでの経緯>
2008年に武雄温泉から諫早間が着工された後、2011年12月26日に政府・与党確認事項が公表され、旧肥前山口から武雄温泉間の在来線複線化を含み、武雄温泉から長崎間を標準軌で整備し、軌間可変電車方式いわゆるフリーゲージトレインにより整備する方針を決めました。博多から新鳥栖間は九州新幹線と路線を共用し、新鳥栖から武雄温泉間は在来線を活用する計画でした。翌年には諫早から長崎間の着工が認可され、工事が進んでいましたが、2016年3月29日に九州新幹線西九州ルートの開業のあり方に係る合意がなされ、フリーゲージトレインの技術開発が開業に間に合わないことから、博多から武雄温泉間を走る在来線特急に武雄温泉駅で乗り換える方式で開業を行うことが決まりました。
2017年には、JR九州がコスト面で収支採算性が成り立たないため、西九州ルートへのフリーゲージトレインの導入は困難と表明しています。2020年から新鳥栖から武雄温泉間の整備方式に係る国土交通省と佐賀県の幅広い協議が開始されましたが、整備方式について合意に至っていません。
<「幅広い協議」の論点>
国土交通省と佐賀県の間で行われている、九州新幹線西九州ルートに関する「幅広い協議」のこれまでの主な論点は、以下の3つである。
- フリーゲージトレイン導入の可能性
- 国土交通省側からの整備方式の提案
- 国土交通省側からのフル規格ルートの提案
<フリーゲージトレイン導入の可能性>
技術的課題が多く、実用に耐えうる車両の開発は困難と結論付けられていることに対して、議論が行われているが、JR九州が採算面から導入は困難と表明しており、技術的に可能だとしても、現時点では導入可能性は極めて低く、技術的に可能かどうかこれ以上議論することは無意味。国土交通省は、採算面から導入できない根拠を示すべき。
<国土交通省側からの整備方式の提案>
国土交通省は、スーパー特急方式、フリーゲージトレイン、対面乗換方式、ミニ新幹線、フル規格を比較し、フル規格が最も有力としていますが、どの方式とするか佐賀県と合意できていません。
よって、在来線の在り方に関しても佐賀県との具体的な協議は進んでいません。具体的な議論に入る場合は、便益を受ける人数と、不便になる人数を踏まえながら議論を進める必要があると考えられます。
スーパー特急方式(新幹線鉄道規格新線)
・建設中区間(武雄温泉・長崎間)について、狭軌への改軌工事が必要となる。
(武雄温泉・長崎間の対面乗換開業(令和4年秋頃)を行うことは出来ない。)
・対面乗換方式と比べても時間短縮効果が見込まれない。
・新車両の開発が必要となる。
フリーゲージトレイン(FGT)
・高速走行車両の開発は断念。
対面乗換方式
・恒久的に武雄温泉駅での対面乗換を行うこととなり、利用者の利便性が損なわれる。
・武雄温泉・長崎間開業に必要な費用以外の建設費がかからない。
ミニ新幹線
・フル規格に比べて、建設費が小さい一方、時間短縮効果も限定的。
・標準軌化工事の期間中、在来線利用者の利便性が損なわれる。
フル規格
・時間短縮効果及び収支改善効果が大きく、新幹線ネットワークの整備効果が最も発揮される。
・新線整備を行うため、建設費が最も大きい。
・在来線の取扱いについて協議が必要。
<国土交通省側からのフル規格ルートの提案>
国土交通省側からのフル規格ルート案について提案があったが、佐賀県はフル規格を要望しておらず、議論は進んでいない。フル規格やルートなどの整備方式ではなく、まずは何を目的に新幹線を整備するのか、お互いに合意して共通の目標を目指して議論を進める必要がある。
<まとめ>
・佐賀県との議論で、フリーゲージトレインが採算面から導入できない根拠を国土交通省が示す必要がある。
・佐賀県と国土交通省の議論は、フリーゲージトレインの導入可否で止まっており、整備方式で合意に至る見通しは全く立っていない。そのため、当面の間、新鳥栖から武雄温泉間に新幹線が整備されることは無い。
・何を目的に新幹線を整備するのか合意して、共通の目標を目指して議論を進める必要がある。
-以上-
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