今回は新金貨物線旅客化の課題について、2022年3月までに葛飾区が公表した新金貨物線旅客化の調査検討資料及びWikipediaの情報をもとに検討します。
<概略>
新金線は、金町駅と新小岩信号場を通って、総武線の小岩駅まで結ぶ総武線の支線で、貨物専用の路線です。施設保有は東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)と日本貨物鉄道株式会社(JR貨物)。運行は、日本貨物鉄道株式会社(JR貨物)が担当しています。貨物路線延長は6.6㎞(新小岩信号場駅~金町駅間)です。葛飾区は、不足する南北鉄道網の充実を図るため、新金線の旅客化検討に取り組んでいます。検討路線延長は7.1㎞(新小岩駅~金町駅間)となっています。線数は単線で、踏切は15箇所あります。運行列車は2018 年3月時点で、定期貨物列車4往復、臨時貨物列車1往復、回送列車などとなっています。
旅客化の実現には、国道6号との交差、貨物列車との併存などの課題があり、こうした課題の解決に向け、関係機関との協議を進めながら検討が行われています。
<結論>
・国道6号との平面交差に課題が多く、国道6号以南の先行整備が検討されているが、実運用可能なレベルまで検討が進んでいない。
・事業スキームも検討段階であり、事業化への道のりは遠い。
<整備イメージ>
駅数:10 駅、7駅
表定速度:10駅案20km/h、7駅案25km/h
所要時間:10駅案22.0分、7駅案17.7分
国道6号と交差する新宿新道踏切では、交通信号にあわせて列車が停止することを想定した待機時間を考慮する。
運行本数等:片道84 本/日(ピーク時 6本/時間、オフピーク時 4本/時間)
運行時間帯は、朝5時~夜中0時(19 時間)とし、ピーク時間は、朝2時間と夕方2時間の計4時間とする。
運賃:JR東日本の運賃体系(地方交通線の運賃水準)を想定しています。
<課題>
・国道6号との平面交差
(1)列車通過の方法
STEP1
旅客列車は、新宿新道踏切の手前で一旦停車※貨物列車の場合は、踏切が通常どおり作動
STEP2
①国道6号の黄から赤信号に合せて、警報機の鳴動開始、遮断機降下
②旅客列車の鉄道信号機青→踏切内の安全を確認し発車
③旅客列車が踏切を通過→遮断機上昇
④道路信号が青信号になる。
(2)課題の整理
(新宿新道踏切部)
鉄道に関する技術基準との整合
道路信号と鉄道信号の情報連携方法
踏切手前での確実な停止(過走に対する安全確保)
旅客列車と貨物列車を識別した踏切動作
踏切保安システムのフェイルセーフの確保
(路線全体)
貨物列車通過時の旅客の安全確保
旅客列車と貨物列車を識別した、運行保安の確保
貨物列車通過時の旅客列車の運行計画(定時性の確保等)
・運行ダイヤ
(1)ダイヤ検討の前提条件
駅数 :7駅案
運行本数 :ピーク時6 本/時以上、オフピーク時4 本/時以上とする。
貨物列車の運行:旅客化後も貨物列車の運行は現状通り運行を確保できるようにする。
走行速度 :新金線と条件が似た東京近郊の複数の路線をもとに表定速度を定め、単線による列車行き違いによる調整時間を加味したうえで表定速度をピーク時:27.1~31.1km/h、オフピーク時31.1km/h と設定した。
国道6 号交差部:国道6 号の踏切遮断時間は増加させぬよう、国道6 号の自動車直進が不可となる赤信号の時間35 秒間で列車が踏切通過することを条件とした。
(2)配線計画
全線単線となっている現況に対して、ダイヤ検討上で列車行き違いが必要となる駅について複線化を図るものとする。ピーク時、オフピーク時、貨物列車運行時において列車行き違いを加味したダイヤ検討を行い、7駅全てで複線化が必要であるとし、以下のような配線計画とした。
(3)検討ダイヤ
ダイヤの検討結果
ピーク時において信号サイクルに合わせて運行間隔を調整すると、等間隔運行は難しいものの、6本/時以上の運行は可能である。貨物列車運行時においては、行き違い列車の駅停車時間を一部調整することで対応が可能である。
ダイヤ乱れの影響について
ア 貨物列車が遅れた場合
金町方面の貨物列車が新小岩駅を60 秒遅れて出発した場合、国道6 号の道路信号は貨物列車通過に合わせ赤信号となるため、信号サイクルに割込みが生じ、以降の旅客列車にも常に60 秒の遅延が生じ続けることになる。
イ 旅客列車が遅れた場合
金町方面の旅客列車が新小岩駅を60 秒遅れて出発した場合、新宿新道踏切を道路信号サイクルに合わせて通過するために、遅れが拡大し、遅延列車と新宿駅ですれ違う列車も駅での待ち合わせのため遅れが生じる。終端駅での列車折返し時間の調整により上述の2 列車のみの遅れに留めることができるが、遅延収束までに約25 分要してしまう。
ウ 道路混雑状況により道路信号サイクルが変化した場合
国道6 号の信号は感応式が採用されており、国道6号の交通状況によって青表示の長さ等を変動させてサイクル長を調整している。このため道路交通状況による信号サイクル長の変動に伴い、旅客列車においても、日常的な遅延が生じるリスクを含んでいる。
(4)運行ダイヤ検討まとめ
貨物列車運行時においてもピーク時、オフピーク時とも運行本数が確保できることがわかった。ダイヤが乱れた場合の検討について、貨物列車が遅延した場合や道路混雑状況により道路信号サイクルが変化した場合において遅延回復が困難であることと、旅客列車が遅延した場合においても遅延回復に25 分要するなど定時性の確保が難しいことが分かった。以上の結果から国道6号との平面交差については、運行ダイヤについてもさらなる検討が必要である。
・段階整備手法の検討
1 段階整備のイメージ
旅客化を早期実現するために国道6号以南を先行的に整備する段階整備について検討をおこなった。(仮)新宿駅(終端駅)と、京成高砂駅との乗換え動線の検討をおこなった。
2 (仮)新宿駅(終端駅)の検討
段階整備により、第1 期整備で終端駅となる新宿駅には、以下の機能が必要となる。
・折返し機能(駅の手前に分岐器を挿入する)
・退避機能(貨物列車の通過待ちのため)
そのため、島式のホーム形態となるような配線を想定する。
3 (仮)高砂駅と京成高砂駅の乗換え動線の検討
京成高砂駅付近の京成本線は、連続立体交差事業化の検討が進められている。連続立体交差事業完成後の京成高砂駅位置・形状は確定していないが、高架化にあわせて側道が整備されることが見込まれるため、新金貨物線(仮)高砂駅との乗換え動線は、鉄道に沿った側道を利用してアクセスすることが考えられるが、京成高砂駅と(仮)高砂駅との距離は約500m 程距離があるため、連続立体交差事業の進捗に合わせて今後、アクセス方法を検討していく必要がある。
・国道6 号との立体交差検討
新金線の全線旅客化について、国道6 号との平面交差を前提に行うことは、運行ダイヤ上さらなる検討が必要であることが確認された。新金線と国道6 号とが交差する新宿新道踏切付近においては国道6号新宿拡幅事業が事業化されており、その整備概要図では新金線が高架化される図となっているため、高架化した場合の影響範囲について確認した。
連続立体交差:高砂駅で京成電鉄を下越しした後に高架区間に最急こう配15‰でアプローチしたが、小松川街道踏切は空頭不足となった。
単独立体交差:国道6号交差部のみ単独高架すると、多くの踏切が空頭不足となる。
・新小岩駅の位置検討
新小岩駅は交通結節機能を強化する観点から、バスやタクシーなどの公共交通機関との乗換え利便性を確保することが求められる。新小岩駅北口地区まちづくり計画の中では、北口周辺は通過交通を抑制しながら、歩行者が安全に安心して回遊できる空間づくりを重視している。上記のことから東北広場隣地への設置を検討した。
既存鉄道路線の配線変更を行わない場合、既存の自転車駐車場やスカイデッキに支障が出てしまう。自転車駐車場やスカイデッキに支障が出ないようにすると、既存鉄道路線の配線変更が必要となる。そのため、今後関係機関との協議が必要となる。
<事業主体及び事業スキーム>
新金線はJR 東日本が既存施設(土地、線路施設等)を保有しており、この状況の中で想定される事業主体、事業スキームについて整理し、様々な機関と協議した結果、現時点で第三セクターが運行主体となるスキームが有力であることが確認できた。また、既存施設をJR 東日本より、第三セクター又は葛飾区へ譲渡する案も追加し、事業主体及び事業スキームについて比較、評価した。新金線の旅客化事業は公的資金を投入して地域公共交通の利便性を向上させる事業であることから、「旅客運営に対して葛飾区のガバナンスがいかに働くか」という視点が最も重要である。そのような観点で比較した結果、JR 東日本より既存施設の譲渡を受け、第三セクター又は区が施設も保有、管理し、運行主体にもなる案①、また、既存施設をJR 東日本から借り受け、第三セクターが旅客施設を保有、管理し、運行主体となる案②が有力と考えられています。ただし既存施設・土地の譲渡料、線路使用料等は未確定であり、今後の関係者との協議や検討委員会等で検討を深度化する必要がある。
<まとめ>
・国道6号との平面交差は運用上の課題が多数あり、詳細な検討が必要となっている。
・ダイヤ乱れで道路信号サイクルが変化した場合、遅延回復が困難であることと、旅客列車が遅延した場合においても遅延回復に25 分要するなど定時性の確保が難しい。
・旅客化を早期実現するために国道6号以南を先行的に整備する段階整備の検討が行われたが、京成高砂駅と(仮)高砂駅との乗り換えについて今後検討が必要。
・国道6号との立体交差化が検討されている。
・新小岩駅の位置については、今後関係機関との協議が必要となる。
・事業スキームは第三セクター又は区が施設も保有、管理し、運行主体にもなる案と、既存施設をJR 東日本から借り受け、第三セクターが旅客施設を保有、管理し、運行主体となる案が有力。
-以上-
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