今回は新金貨物線旅客化について、2019年に葛飾区が公表した新金貨物線旅客化の検討資料及びWikipediaの情報をもとに検討します。
<概略>
葛飾区は、東西を結ぶ鉄道路線に恵まれる一方、南北に走る鉄道は総延長2.5 kmの京成金町線のみであり、青砥駅以南の公共交通は路線バスに依存しています。そこで当貨物線を旅客化して新小岩駅とJR金町駅をつなぐ南北公共交通手段とする構想が浮上し、検討されています。古くは1953年の第16回国会において、衆議院議員の天野公義が当時の吉田内閣に対し「地元民間にある」「熱烈な要求」として、当路線の複線・旅客化を求める「金町駅、新小岩駅間客車運行に関する質問主意書」を提出しています。これに対して政府は、多額の設備費を理由に困難であると回答しています。貨物輸送量の減少など状況の変化はあるものの、需要予測に基づく採算性や設備の問題(葛飾区新宿(にいじゅく)地区で国道6号を踏切で平面交差する)など、数々の課題も存在しています。
葛飾区は2017年度予算に、LRT運行時の需要予測等の費用として2,000万円を計上し、具体的な検討を始めました。2018年度に調査を行い検討した結果、2019年4月、通勤客を中心に1日3万6,000人超が利用すると結論づけられました。
葛飾区は2022年からJR東日本や国土交通省などと共に検討会を発足させ、本格的に旅客路線化事業に着手し、2030年頃に一部区間の開業を目指す方針であることが『読売新聞』で報じられました。計画では7から10の新駅を設置し、柴又帝釈天最寄りの京成線に乗り換えが出来る中間駅も予定しています。ピーク時には約10分間隔で運行し、新小岩駅から金町駅間を約20分で結ぶとしています。第三セクター会社が運行主体となり、JR東日本から線路を借り受けて営業する上下分離方式を軸に調整しています。
<結論>
・駅間は短く、路面電車に近い機能を想定している。
・事業性はかなり厳しいとみられ、国道6号との交差が実運用上の課題となっている。
<新金貨物線>
新金貨物線は、新小岩信号場駅と金町駅を結ぶ総武線の貨物支線の通称です。大正15 年に新小岩操車場とともに建設され、東京臨海部と千葉方面との貨物輸送を担う重要な路線とされていました。武蔵野線の新松戸駅から西船橋駅間の延伸により、貨物経路が南流山から西船橋間及び京葉線の西船橋から蘇我間を経由するようになったため、新金貨物線を経由する列車の本数は、近年大幅に減少しています。一方、新金貨物線は、武蔵野線から鹿島臨海鉄道に接続する鹿島サッカースタジアム駅への唯一の経路であることから、今後も貨物列車の運行は存続される見込みです。
施設保有:東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)、日本貨物鉄道株式会社(JR貨物)
運行:日本貨物鉄道株式会社(JR貨物)
貨物路線延長:6.6㎞(新小岩信号場駅~金町駅)
検討路線延長:7.1㎞(新小岩駅~金町駅)
軌間:1,067㎜
線数:単線
踏切:15箇所
運行列車:定期貨物列車4往復、臨時貨物列車1往復、回送列車など(2018 年3月時点)
<検討条件>
・既存施設等の活用
既存の新金貨物線の施設や構造物等を最大限に活用する。
・貨物列車との併存
JR貨物の貨物列車の運行は、今後も存続する。
・地域公共交通としての取り扱い
他の路線との直通運行などは考慮しない新小岩と金町とを結ぶ地域公共交通として取り扱う。
・国道6号との交差方法
新金貨物線と道路との交差のうち、国道6号との交差方法については、自動車交通への影響を考慮し、道路側の交通信号に合わせて旅客列車を通過させることとする。
・車両の検討
車両は、ライトレール車両と通常の電車の2案とする。
・起終点駅の位置
起終点駅である新小岩駅及び金町駅は、総武線または常磐緩行線などとの乗り継ぎを考慮した位置に設定する。
・中間駅の位置及び数
中間駅の位置及び数は、駅勢圏人口、周辺施設等へのアクセス、他の交通との結節性、葛飾区公共交通網整備方針における評価地域、駅へのアクセス利便性、速達性を考慮して設定する。
・根拠法について
適用する根拠法は、鉄道事業法及び軌道法が想定されるが、これについては、今後整理を行うため、本検討では考慮していない。
<サービス条件>
駅数:10 駅、7駅
表定速度:10駅案20km/h、7駅案25km/h
所要時間:10駅案22.0分、7駅案17.7分
国道6号と交差する新宿新道踏切では、交通信号にあわせて列車が停止することを想定した待機時間を考慮する。
運行本数等:片道84 本/日(ピーク時 6本/時間、オフピーク時 4本/時間)
運行時間帯は、朝5時~夜中0時(19 時間)とし、ピーク時間は、朝2時間と夕方2時間の計4時間とする。
運賃:JR東日本の運賃体系(地方交通線の運賃水準)を用いる。
営業キロ0~3 km 運賃140円
営業キロ4~6km 運賃190円
営業キロ7~10km 運賃210円
<需要予測結果>
輸送人員は、10 駅案が38.4 千人/日、7駅案が36.6 千人/日で、10 駅案は7駅案に比べ約1.8 千人/日多い。目的別の輸送人員割合は、両案ともに通勤が最も多く、10 駅案が約63%、7駅案が約64%を占める。次に多いのは、両案ともに私事で10駅案が約26%、7駅案が約25%となった。
旅客化による周辺鉄道への影響を把握するため、各鉄道駅の乗降客数の増減を予測した。
既存鉄道から新金貨物線旅客化への利用者の転換があることが確認できた。今後は、こうしたことについても考慮しながら、検討を進めていく必要がある。
<概算事業費>
国道6号などの道路とは平面交差とすることなど、既存鉄道施設の活用を前提とした上で、必要となる施設整備等を想定し、概算事業費の試算を行う。
・輸送力の設定(ピーク時の需要を考慮した車両及び編成)
・線路、駅、連絡線、検車庫、踏切、電車線、信号・通信、車両等の施設整備
・用地取得(検車庫、連絡線、車両留置施設等)
概算事業費は、類似事例等をもとに現時点における目安として試算したものであり、今後の検討により変動する。また、既存の鉄道敷地や施設の使用に係る費用は、現時点では想定できないため計上していないが、こうした費用についても今後必要となる。
概算事業費 ライトレール車両案:約250億円、電車案:約200億円
※概算事業費は、国道6号を含む全ての踏切を平面交差とした試算であり、また、鉄道施設の使用に係る費用は見込んでいない。これは、今後の関係機関との協議や検討により変動する。
<事業収支>
事業の収支イメージを把握するため、単年度における収支を現段階で想定できる条件のもと試算した。営業収入は、運賃収入及び運輸雑収入とし、運賃収入は需要予測により求めた移動目的別の駅間毎輸送人員及び駅間運賃により算出した。運行経費は、平成27 年鉄道統計年報より、類似する複数の既存事業者の経営指標から原単位を設定し算出した。
単年度収支
7駅案:約2.7億円~ -2.9 億円
10駅案:約3.2億円~ -2.4 億円
※単年度収支の試算には、減価償却費や諸税、借入金の償還費等は含んでいない。
※運行経費算出時の原単位の考え方により、収支が変動することがわかった。
試算された事業費を単純に単年度収支で割って償還年数を試算すると、最も良い条件でも償還に60年以上かかるとみられる。
<事業主体>
旅客化事業の上下分離方式の一般的な事業スキームイメージを想定しています。運行主体は第三セクターや既存の鉄道事業者、施設整備・保有主体については第三セクター、葛飾区やJR 東日本などが考えられます。
<まとめ>
・延長7.1㎞の間に10駅又は7駅が想定されており、駅間は1km程度と短く、路面電車に近い機能を想定している。
・試算された事業費を単純に単年度収支で割って償還年数を試算すると、最も良い条件でも償還に60年以上かかるとみられ、事業性はかなり厳しいとみられる。
・国道6号との交差が実運用上の大きな課題になるとみられている。
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