今回は、三遠南信自動車道の長野県及び飯田国道事務所管轄区間について、長野県と国土交通省中部地方整備局のホームページ資料及びWikipediaの情報を基に検討します。
<概略>
三遠南信自動車道は、長野県飯田市の中央自動車道・飯田山本インターチェンジから愛知県を経由して静岡県浜松市北区の新東名高速道路・浜松いなさジャンクションに至る、総延長約100kmの高規格幹線道路です。道路名に冠された「三遠南信」とは、愛知県東部(旧三河国)、静岡県西部(旧遠江国)、長野県南部(南信地方)の総称です。略称は三遠南信道で、高速道路ナンバリングによる路線番号は、新東名高速道路引佐連絡路とともに「E69」が割り振られています。国道474号の自動車専用道路(国土交通大臣指定に基づく高規格幹線道路(一般国道の自動車専用道路))に指定されています。
中央構造線や赤石山脈(南アルプス)を中心とした険しい山岳地帯を通り、特に静岡県浜松市天竜区水窪町と長野県飯田市南信濃の県境を結ぶ青崩峠は地盤が脆弱でありながら地下水位が高く出水しやすいため、青崩トンネルの掘削は三遠南信道全体の工事の中でも最難関とされています。また、なるべく短期間で整備及び開通効果を上げる方針のため長野県と静岡県の一部区間は国道152号の現道を改良する方針で、現状一部区間では自動車専用道路の計画自体が存在しない区間があります。
今回は三遠南信自動車道のうち、長野県及び飯田国道事務所管轄区間について検討します。
<結論>
・事業中の青崩峠道路は順調に進んでいるが、飯喬道路の未開通区間は開通の目途が立っていない。
・当面は6割以上の区間で一般道並の速度でしか走行できない路線となる。
<道路概略>
三遠南信自動車道(長野県及び飯田国道事務所管轄区間)
起点:長野県飯田市山本(飯田山本IC)
終点:静岡県浜松市天竜区水窪町奥領家(水窪北IC)
飯田山本IC – 喬木IC:飯喬道路(飯田国道事務所管轄)
喬木IC – 程野IC(暫定出入口):小川路峠道路開通区間(飯田国道事務所管轄)
喬木IC(暫定出入口) – 小嵐IC:現道活用区間(長野県管轄)
小嵐IC – 水窪北IC:青崩峠道路(飯田国道事務所管轄)
<道路詳細>
・飯喬道路(一部暫定2車線及び完成2車線で供用済、一部区間事業中)
起点:長野県飯田市山本(飯田山本IC)
終点:長野県下伊那郡喬木村氏乗(喬木IC)
延長:22.1 km
構造規格:第1種第3級(飯田山本IC – 飯田上久堅・喬木富田IC)
第1種第4級(飯田上久堅・喬木富田IC – 喬木IC)
設計速度:80 km/h(飯田山本IC – 飯田上久堅・喬木富田IC)
60 km/h(飯田上久堅・喬木富田IC – 喬木IC)
標準幅員:飯田山本IC – 天龍峡IC(20.5 m(暫定10.5 m))
天龍峡IC – 飯田上久堅・喬木富田IC(12.0 m)
飯田上久堅・喬木富田IC – 喬木IC(10.5 m)
車線幅員:3.5 m
車線数 :飯田山本IC – 天龍峡IC(4車線(暫定2車線))
天龍峡IC – 喬木IC(2車線(完成2車線))
長野県飯田市の中央自動車道から分岐し同市内を横断し長野県下伊那郡喬木村まで至る、現在建設中の自動車専用道路です。基本計画・整備計画では起点を長野県飯田市山本(飯田山本IC)、終点を長野県飯田市上久堅(飯田上久堅・喬木富田IC)とする延長約14.6 kmの道路とされていました。この区間は全線開通しています。一方、飯田上久堅・喬木富田IC – 喬木ICの7.5 km区間が2004年度に小川路峠道路から飯喬道路に編入され、この区間が現在事業中となっています。2022年9月現在も未着手のトンネルが多く残り、開通の目途は立っていません。
・小川路峠道路(一部暫定2車線で供用済、未開通区間の事業化は当面無い)
起点:長野県下伊那郡喬木村氏乗(喬木IC)
終点:長野県飯田市上村程野(程野IC)
延長:6.0 km
構造規格:第1種第3級
設計速度:80 km/h
標準道路幅員:10.5 m(暫定トンネル部 9.5 m)
車線幅員:3.5 m
車線数:4車線(暫定2車線)
事業費:約550億円
延長6.0 kmのうち起点寄り4.8 kmの区間が供用済みですが、矢筈トンネル東側坑口付近で国道152号に接続する暫定出入口から程野ICへ至る1.2 kmは現道活用区間のため当面着工しない予定。基本計画・整備計画では起点を飯田上久堅・喬木富田IC、終点を程野ICとする延長13.5 kmの道路とされていますが、飯田上久堅・喬木富田IC – 喬木ICの7.5 km区間は2004年度に小川路峠道路から飯喬道路に編入された。
・向井万場拡幅(国道152号現道改良区間(長野県)開通済み)
起点:長野県飯田市上村程野(小沢橋南詰付近・小川路峠道路終点)
終点:長野県飯田市上村上町(県道251号交点付近)
延長:6.32 km
全体幅員:9.0 m
車線幅員:3.25 m
車線数:2車線
事業費:約164億円
急峻な地形のため急カーブが多いほか浦の沢トンネルが交互通行となっているなど幅員狭小個所が多く、落石による被害や通行止めもあったため、線形を改良するとともに完全2車線化する事業。1977年に着手、2011年7月3日に上中郷工区(豆嵐トンネルとその前後)1.162 km が供用開始され全線開通しました。
・上町~小道木(国道152号現道改良区間(長野県)開通済み)
起点:長野県飯田市上村上町(県道251号交点付近)
終点:長野県飯田市南信濃小道木(熊野神社付近)
延長:6.6 km
車線数:2車線
1972年から1995年にかけて整備されました。
・小道木バイパス(国道152号現道改良区間(長野県)開通済み)
起点:長野県飯田市南信濃小道木(熊野神社付近)
終点:長野県飯田市南信濃押出(林道千遠線交点・和田バイパス起点)
延長:1.7 km
全体幅員:7.5 m
車線幅員:3.0 m
車線数:2車線
事業費:約54億円
急峻な地形により急カーブが多く幅員狭小のため、2車線のバイパスを建設する事業。渓谷沿いの現道を2本のトンネルと2つの橋梁により短絡する。2008年度に着手し、2015年10月17日に全線供用されました。
・和田バイパス(国道152号現道改良区間(長野県)開通済み)
起点:長野県飯田市南信濃押出(林道千遠線交点・小道木バイパス終点)
終点:長野県飯田市南信濃梶谷(民宿せせらぎの里付近・小嵐バイパス起点)
延長:4.114 km
全体幅員:12.0 m
車線幅員:3.25 m
車線数:2車線
事業費:約61億円
渓谷に開けた住宅密集地を通過するため幅員狭小でカーブが多いので、住宅地を避ける形で2車線のバイパス道路を建設する事業。現道を2本のトンネルと3つの橋梁により付け替える。1998年度に着手し、2010年度までに林道千遠線交点からかぐら大橋南詰現道交点の間(約2.1 km)、2015年3月23日に秋葉街道下市場トンネル周辺を除いた区間(約1.4 km)、2016年12月17日に秋葉街道下市場トンネルを含む区間(約0.6 km)が供用開始し、全線開通しました。
・小嵐バイパス(国道152号現道改良区間(長野県)一部開通済み)
起点:長野県飯田市南信濃梶谷(民宿せせらぎの里付近・和田バイパス終点)
終点:長野県飯田市南信濃小嵐(青崩峠道路接続部(小嵐IC))
延長:2.425 km
全体幅員:7.5 m
車線幅員:3.0 m
車線数:2車線
事業費:約49億円
青崩峠へ向かっての幅員狭小かつ急カーブが連続する急勾配の道路で、大型車両の通行が特に困難であるため、これを改築する事業です。現道の改良が主ですが、兵越林道分岐の北約500m付近地点で現道から逸れて南南西に向かい、谷を越えた所で青崩峠道路に接続します。2007年度に着手、2015年3月23日に和田バイパス終点から現道交点の間、約0.4 kmが開通しました。未供用区間も現在工事が進んでいます。
・青崩峠道路
起点:長野県飯田市南信濃和田(南信濃IC)
終点:静岡県浜松市天竜区水窪町奥領家(水窪北IC)
延長:13.1 km(うち青崩トンネル 4,998 m)
構造規格:第1種第4級
設計速度:60 km/h
標準道路幅員:トンネル部(9.5 m)
土工部(10.5 m)
車線幅員:3.5 m
車線数:2車線
国道152号の不通区間である青崩峠の西側を、青崩トンネル(仮称・4,998 m)等によって迂回する道路です。 延長13.1 kmのうち、南信濃ICから小嵐ICまで7.2 kmについては当面国道152号現道を活用し、小嵐ICから終点である水窪北ICまでの5.9 kmのみ早期供用を目指して先行整備する事としています。青崩峠トンネルの掘削率は2022年9月時点で92%となっており、直近の進捗と同程度の速さで工事が進めば、2022年度内に貫通するとみられます。
当初は国道152号の東側に沿って兵越峠直下を通過する計画で、そのルートに従って草木トンネル(草木IC – 水窪北IC間)が建設・供用されました。しかし同トンネル供用後の1997年に、兵越峠直下にあたる地盤が脆弱なことが判明し、2008年までに計画が地盤のやや硬い青崩峠西側を通るルートに変更されました。そのため、草木トンネルは三遠南信自動車道のルートから外れ、高速道路規格から一般道路規格に格下げされました。
<まとめ>
・飯喬道路の未開通区間は、2022年9月時点で未着手のトンネルが多く残り、開通の目途は立っていない。
・小川路峠道路の暫定出入り口から、青崩トンネルまでは、当面の間現道活用区間とされる。
・青崩峠道路は青崩トンネルの掘削が順調に進めば、数年内に開通が見えてくるとみられる。
・飯喬道路の飯田山本IC – 飯田上久堅・喬木富田ICと矢筈トンネル区間を除く区間は、最高時速60km/h区間又は現道活用区間となるため、当面は6割以上の区間で一般道並の速度でしか走行できない路線となる。
・豊橋や浜松などの人口集積地と長野県を結ぶ重要道路であるが、一部区間で経費削減のため道路規格を落として建設されている。
-以上-
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