JRローカル線【民営化会社の赤字路線はどうなる?】

 今回は、2022年7月25日に国土交通省の鉄道事業者と地域の協働による地域モビリティの刷新に関する検討会から公表された提言をもとに完全民営化したJRのローカル線の今後について検討します。

<概略>

 JR旅客各社においては、都市部路線や新幹線、関連事業の収益により、国鉄改革時の経営環境を前提とすれば、不採算路線を含めた鉄道ネットワークを維持していくことが可能と考えられていました。本島3社とJR九州が完全民営化した時も大臣指針で不採算路線の維持に努めるようルール化されていました。

 しかしコロナ以前から、人口減少やマイカーへの転移等に伴う利用客の大幅な減少により、大量輸送機関としての鉄道の特性が十分に発揮できない状況となっており、減便や投資抑制等により公共交通としての利便性が大きく低下し、更なる利用者の逸走(いっそう)を招くという負のスパイラルに陥っていました。アフターコロナにおいてもコロナ以前の利用者数まで回復することが見通せないことから、事業構造の変化が必要として、国土交通省の「鉄道事業者と地域の協働による地域モビリティの刷新に関する検討会」から提言が出されました。

 提言は、引き続きJR各社による不採算路線の維持を強く期待するとしながらも、JR各社のローカル線区については輸送密度が1000人未満、かつピーク時の1時間当たり輸送人員500人未満を一つの目安としつつ、国により協議会を設置することを提言しました。このことにより、JR各社の地方ローカルが、廃線またはJRから経営分離される方向に向かって動き出すと考えられています。

 JR北海道やJR四国は国費を投入してローカル線を維持していくという議論も可能ですが、完全民営化した本島3社とJR九州はそれも難しいと考えられます。そのため今回は、完全民営化したJRのローカル線の今後について検討しました。

<結論>

・ほとんどのJRローカル線は廃線か、JRから経営分離される。

<提言の概略>

・JRが営業する区間は、JR各社が路線の維持に努めることが前提。

・危機的な路線は地元自治体とJRで協議をして方向性を決める。

・さらに厳しい路線について国は鉄道事業者・沿線自治体間の協議の場を設置。

JRと沿線自治体に解決を丸投げしているスキームのため、国はローカル線の廃線はやむを得ないと考えているとみられる。

<輸送密度千人未満の路線>2019年度

 提言の中で国が協議会を設置する目安の一つとされている、輸送密度千人未満の路線は以下の通りです。コロナの影響が少ない2019年度のデータを使用しました。

・JR東日本:大湊(おおみなと)線、津軽線、五能線、八戸線、花輪線、山田線、釜石線、北上線、大船渡線、気仙沼線、陸羽東線、陸羽西線、米坂線、只見線、飯山線

・JR東海:名松(めいしょう)

・JR西日本:大糸線、(えつ)()(ほく)線、小浜線、木次(きつぎ)線、美祢線、小野田線

・JR九州:肥薩線、(きっ)()線、日南線

コロナ禍でさらに輸送密度1000人未満のローカル線は増加している。

(参考)

・JR北海道:留萌本線、根室本線、宗谷本線、釧網本線、日高本線、石北本線

・JR四国:予土線

<赤字ローカル線の経営への影響>

 輸送密度日当たり2000人未満の路線の赤字額は純利益の約20~35%程度となっており、路線別の赤字額は概算であるとしても、JR東海を除く完全民営会社は、放置できないレベル。

・JR東日本

2,000人/日未満の線区の営業損益合計:約700億円(2019年度)

 純利益:約2000億円(2019年度)

ローカル線の損益が純利益の約35%に達する。

・JR東海

2,000人/日未満の線区の営業損益合計:非公表

 純利益:約4400億円(2019年度)

ローカル線の損益は経営上大きな問題はないとみられる。

・JR西日本

2,000人/日未満の線区の営業損益合計:約250億円(2017-2019年度の平均)

 純利益:約900億円(2019年度)

ローカル線の損益が純利益の約28%に達する。

・JR九州

2,000人/日未満の線区の営業損益合計:約70億円(2020年度)

 純利益:約300億円(2020年度)

ローカル線の損益が純利益の約23%に達する。

旅客運賃の収入が少なく、経営の多角化を進めてきたJR九州やJR西日本の方が影響度は少なく抑えられている。

<課題>

・JR各社が営業する区間は、JR各社が路線の維持に努めることが前提。

 →完全民営会社にこれを求めることが難しいレベルの赤字が発生。

・危機的な路線は地元自治体とJRで協議をして方向性を決める。

 →地元自治体もJRも危機的な赤字を解消するアイデアは現状ない。

・さらに厳しい路線について国は鉄道事業者・沿線自治体間の協議の場を設置。

 →国は財政措置等の積極的な関与はしない方向。

以上のことから、国としては廃線もしくは経営分離が前提で進めたいのは明らか。

<今後の進め方>

・鉄道を残す場合

 JRから経営分離し、運賃を値上げするとともに国や地方自治体が赤字を補填する。

現状では国は赤字を補填しないとみられるため、ほとんどの路線はこの方式を取れない。国がローカル線を維持したいのであれば、JR各社の利益を赤字ローカル線に投入する仕組みを国が作るべき。

・鉄道を残さない場合

 廃線とし、バスやBRTなどに転換する。

 ほとんどの路線がこの方式をとるとみられるが、地方自治体は難色を示すため、問題の解決は長期化するとみられる。

 現状、国はほとんど関与しないが、JRと地方自治体の話し合いがうまくいかない場合、関与の度合いを高める必要があるとみられる。

<まとめ>

・誰も主体的に問題解決しようとしていないため、ほとんどのローカル線は廃線もしくはJRから経営分離されると考えられる。

・ローカル線を存続するには赤字を補填するスキームが必要だが、民営化会社の赤字路線に国が積極的に関与する可能性は低く、ほとんどの路線が廃線になる可能性が高い。

・地方公共団体に政治力があれば、赤字を補填するスキームを国が準備する可能性もある。

-以上-

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