今回は、2019年に関係者会議の調査のまとめが公表された小田急多摩線の相模原延伸計画について、関係自治体のHP資料及びWikipediaの情報を基に検討します。
<概略>
小田急多摩線は、神奈川県川崎市麻生区の新百合ヶ丘駅から東京都多摩市の唐木田駅までを結ぶ、小田急電鉄の鉄道路線です。唐木田から横浜線・相模線方面への延伸が、2000年の運輸政策審議会答申第18号で今後整備を検討すべき路線として位置づけられました。2006年5月に神奈川県相模原市にある在日米軍相模総合補給廠の一部返還が決まったことにより、相模原市と町田市は同年11月に「小田急多摩線延伸検討会」を設置しました。そして両市は、2014年に中央新幹線開業が予定される2027年までの実現を目指すことで合意しました。
2014年5月に「小田急多摩線延伸計画に関する研究会」から発表されたルートでは、唐木田駅から東京都道158号小山乞田線(尾根幹線道路)と交差し、町田市に入ります。そして小山田・常盤地区を抜け、東京都道47号八王子町田線(町田街道)と交差、相模総合補給廠を縦断し、相模原駅で横浜線と交差、その先は相模原市の中心部を抜け、相模線上溝駅へ向かいます。相模原駅と上溝駅に駅を増設、さらに町田市内に新駅が一つ設置されることになっています。この計画では事業費を1,080億円と試算しており、開業後40年以内で黒字化が達成できる見通しで、事業の実現は可能であるとしました。しかし、2019年5月に開催された「小田急多摩線延伸に関する関係者会議」では、都市鉄道利便増進事業制度の採用を前提に、第1期整備区間として相模原駅まで部分開業して、概算建設費を870億円に抑え黒字化の達成を26年に短縮してから、第2期整備区間として上溝駅まで開業するよう計画が変更されました。
さらに、上溝駅から愛川町・厚木市を経由して本厚木駅に至る路線の建設も相模原市・厚木市・愛川町・清川村から要望されているが、採算面から実現の目途は立っていない。
<結論>
・事業採算性の観点から、相模原駅までの先行着手が濃厚。
・関係自治体の人口減少は確実とみられ、着工するか注目される。
<延伸区間>
計画区間:唐木田駅(東京都多摩市)~上溝駅(神奈川県相模原市中央区)
路線距離:8.8km
唐木田駅~上溝駅間のうち、本線活用する唐木田車庫内(0.5km)を含む。
軌間 :1,067mm
新設駅数:3駅(中間駅(町田市上小山田町付近)、相模原駅、上溝駅)
駅設備は10 両対応(全長200m)
複線区間:全線
電化区間:全線(直流1,500 V)
最高速度:100 km/h(設計最高速度の想定値)
地上区間:唐木田 – 相模原間の一部に地上区間を想定。
上溝駅と留置線は地上に設置される。
留置場所:多摩センター(新設:3編成)、唐木田(既設:1編成)、上溝(新設:3編成)
必要な留置場所は7編、引き上げ線は10両対応の210mを確保。
<路線構造>
・構造種別延長
土工:延長0.8 km 切取・盛土(既設路盤を含む)
高架橋:延長0.3 km 橋りょうを含む
高架駅:延長0.4 km 駅橋りょうを含む
山岳トンネル:延長2.4 km
円形トンネル:延長3.9 km
箱型トンネル:延長0.2 km
地下駅:延長0.3 km
合計:延長8.3 km
<駅構造>
中間駅 :相対ホーム2面2線、高架構造
相模原駅:相対ホーム2面2線、地下構造
上溝駅 :島式ホーム1面2線、高架構造
<検討の条件>
・開業想定年次:2033年
・想定運行本数:ピーク時9本/h(急行3本、各停6本)
オフピーク時6本/h(急行3本、各停3本)
・運賃設定:小田急電鉄の運賃体系に50円の加算運賃を想定
・想定事業スキーム:都市鉄道利便増進事業
・想定事業主体:営業主体 小田急電鉄株式会社
整備主体 公的主体
・沿線地域開発:相模総合補給廠一部返還地等の開発による将来人口の増加を見込む
(相模総合補給廠一部返還地の将来計画人口(従業人口20,000人、夜間人口3,000人)は「相模原市広域交流拠点整備計画(2016年8月)」に基づく。)
・JR横浜線との乗換:延伸線新駅とJR相模原駅乗り換えは、地下連絡通路を想定
<採算検討結果>
・基本ケース(唐木田~上溝)
概算建設費:1,300億円
輸送人員:73.3千人/日
整備効果(B/C)収支:1.2(30年) 1.4(50年)
採算性:42年で黒字化
・駅位置変更ケース(唐木田~上溝)
概算建設費:1,300億円
輸送人員:74.9千人/日
整備効果(B/C)収支:1.2(30年) 1.4(50年)
採算性:40年で黒字化
・段階的整備ケース第1期整備区間(唐木田~相模原)
概算建設費:870億円
輸送人員:53.3千人/日
整備効果(B/C)収支:1.3(30年) 1.5(50年)
採算性:26年で黒字化
先行整備する唐木田~相模原間を第1期整備区間として、部分開業とすることで初期投資を抑え、収支採算性が都市鉄道利便増進事業の適用の目安とされる30年を満たしたが、第2期整備区間(相模原~上溝)については調査されていない。
2019年の小田急多摩線延伸に関する関係者会議調査のまとめを受けて、今後は詳細検討に取り組むとしている。
<今後の課題>
・事業化を見据えた計画案の検討の深度化
・沿線のまちづくりの具体化
・財源の確保
・関係者の合意形成
関係する3市の人口減少は確実とみられるため、着工までこぎつけられるか注目される。
<更なる延伸>
上溝駅から延伸して、愛川町・厚木市を経由して本厚木駅に至る路線の建設も相模原市・厚木市・愛川町・清川村から要望されている。神奈川県鉄道輸送力増強促進会議でも2016年度小田急電鉄向け要望書にて上溝駅方面への延伸の早期実現化とともに、本厚木駅に至る路線の建設を要望していますが、小田急は上溝駅以遠への延伸は建設費や採算面などで難色を示しており、実現の目途は立っていない。
<まとめ>
・唐木田~相模原間のみであれば、都市鉄道利便増進事業の適用を受けて整備する事が可能。
・2019年の小田急多摩線延伸に関する関係者会議調査のまとめを受けて、現在は詳細検討に取り組んでいる。
・事業採算性の観点から、相模原駅までの先行着手が濃厚とみられている。
・関係自治体の人口減少は確実とみられ、着工するか注目される。
-以上-
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