今回は第二青函トンネルの日本プロジェクト産業協議会(JAPIC)の津軽海峡トンネル構想について、北海道開発協会 広報誌「開発こうほう」2019年10月号及びWikipediaの情報を基に検討します。
<概略>
日本プロジェクト産業協議会(JAPIC)は2017年2月13日、貨物列車用と自動車用の2本のトンネルを新たに建設し、トンネル内に送電線やガスパイプラインを敷設することで、既存の青函トンネルを新幹線専用とする構想を発表しました。事業費は約7500億円、工期は約20年間を想定し、地上から海に向かって掘り進む際の傾斜を急にすることで延長を約30 kmに短縮するとしています。
戸田建設株式会社執行役員の神尾哲也氏によると、供用されている青函トンネルは、北海道新幹線と貨物車両との共用により、新幹線本来の高速走行性が発揮されていない状況となっており、早急な解決が望まれています。また、地方創生の観点で北海道の経済的発展を考える時、物流の根幹となる道路が津軽海峡で途切れている事が最大のボトルネックとなっています。これらを解決する事が喫緊の課題であり、JAPICの津軽海峡トンネル構想により、日本の大動脈となり得る北海道から本州、四国、九州間の、全ての陸上物流ルートが完成し、そのストック効果により産業のさらなる成長を加速させることが可能となります。また、エネルギー供給においても、本州に送電する電力線のトンネル内空間活用により、再生可能エネルギー等の送電量の増加が見込め、将来必要とされる天然ガスパイプラインの敷設も可能となります。これらは日本経済の恒久的な発展に寄与する。とされています。
<結論>
・道路トンネルと組み合わせれば、事業性を担保できる可能性が示された。
<検討案概略>
起点:青森県東津軽郡外ヶ浜町
終点:北海道松前郡福島町
現トンネル東側に2 本のトンネルを建設
・カートレイン、JR貨物の共用トンネル( 1 期)
(鉄道は、青森側は三厩、北海道側は木古内に接続)
・無人自動運転車専用トンネル( 2 期)
(送電線、天然ガスパイプラインを敷設)
<構造及び工事概要>
工事概要(シールド工法を採用※詳細検討必要)
・延長L=約30㎞× 2 本
・内径約10m( 1 期)、約9 m( 2 期)
※北海道、青森側から1 台ずつ発進し地中接合
工期 1 期、2 期工事合わせて約20年
<事業性検討>
トンネル業費:7,500億円
( 1 期 約4,200億円、2 期 約3,300億円)
事業費削減の取組
・トンネル勾配を1.2%から勾配2.0%に変更する事により延長を約50kmから約30kmに短縮することで約8,000億円削減。
・トンネル断面の縮小(通常の道路トンネル内径12m⇒10~ 9 m)、換気設備等の縮減、坑内専用変更等により約4,500億円削減。
投資回収年数
通行料と電力託送による収入を主な収入源とし、投資回収年数を約50年と見込む。
算定根拠
・通行料収入は110億円/年とし、2 期工事完了時点で50%増加の165億円/年と想定する。
【通行量:3,000台/日、通行料金:5,350円/台(大型)⇒3,000台/日×5,350円/台× 2 (往復)×365日=117億円≒110億円】
*通行量:2014年(公社)トラック協会、北海道からの年間トラック輸送量1,041万トンを基に10t車の日通行量に換算し算定
*通行料金:2013年国土交通省高速道路料金基本指針、海峡部等特別区間の通行料金108.1円/kmを基に、108.1円/km×30km×1.65( 大型車)=5,350円と算定
・電力託送収入は30億円/年(毎年+ 5 %/年)と想定する。
【2014年東京電力㈱の特定規模需要:1,565億kwh/年特定規模需要の年間1 %を託送した場合:15億kwh/年託送料金: 2 円/kwh⇒15億kwh/年× 2 円/kwh≒30億円/年】
<事業スキーム>
・PPP(パブリックプライベートパートナーシップ)方式を採用し、特別目的会社としてトンネル整備運営会社(国の機関、地方・受益企業の参画)を計画。
<整備効果>
・新幹線の速度向上
現青函トンネルが本来の建設目的であった新幹線専用となり、新幹線の最大能力が発揮でき、北海道新幹線全線開通後の東京~札幌間の需要増大が期待されます。さらに、JR貨物は鉄道輸送の安定化と需要に応じた増便が可能となります。
・トラック輸送のコスト削減
トラック輸送では、札幌~東京間と距離がほぼ同じである福岡~東京間と、同等のトラック輸送コストとなることが期待できます。現在の10tトラックの輸送費は、フェリー航送費を含め札幌~東京間が5.5万円高くなっています。トンネルの完成により年間573億円の輸送費の削減が可能となります。
・輸送システム変革とエネルギー調達多様化
食材関連では生産地から消費地までの「弾丸輸送」ができ、新鮮、高品質の食材輸送が可能となるとともに、生産者から消費者へのきめ細やかな輸送システムの確立が可能となります。さらに、本州への売電事業拡大が期待でき、将来の天然ガスパイプラインによって、国内の一次エネルギーの輸入元が多様化して、供給減や値上げ等に対応することができる様になります。
<まとめ>
・シールド工法を採用して現在の青函トンネルよりも浅い領域に建設し、勾配を急にすることで、コストが大幅に削減できる可能性が示されたが、実現には工法の詳細検討が必要となる。
・道路トンネルと組み合わせれば、事業性を担保できる可能性があることが示されたが、実現に向けては詳細な検討が必要となる。
―以上―
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