今回は、開業目標が2023年3月とされている宇都宮ライトレールについて、Wikipediaと関係自治体のHP資料及び東京大学公共政策大学院ワーキング・ペーパーシリーズの情報を基に検討します。
<概略>
ライトレールという概念は、1972年ごろにアメリカ連邦交通省都市大量輸送局によって制定されました。これによれば、「大部分を専用軌道として部分的に道路上(併用軌道)を1両ないし数両編成の列車が電気運転によって走行する、誰でも容易に利用できる都市の交通システム」とされ、高コストな建設費を避け、輸送力は高架鉄道や地下鉄よりは小さく、路面電車・路線バスとは異なり専用軌道を基本とすることで、概ね運行が道路交通に影響されない形態の都市旅客鉄道を意味しています。
宇都宮市では1990年代から公共交通ネットワークを検討する中で、新交通システムについての調査が行われており、2013年3月に「東西基幹公共交通の実現に向けた基本方針」として、ライトレール導入の方針が示されました。これらを受けて、宇都宮市と芳賀町は、第三セクター方式で新会社を設立することを決定し、2015年に宇都宮ライトレール株式会社が設立されました。
全体整備区間は、宇都宮市区間として宇都宮市街地中心部西側の桜通り十文字交差点からJR宇都宮駅を経由してゆいの杜東までの延長約12 kmと、芳賀町区間の芳賀・高根沢工業団地までの約3 kmが計画されています。宇都宮駅東口から芳賀・高根沢工業団地までの14.6 kmが優先整備区間として着工しています。地域公共交通の活性化及び再生に関する法律に基づく上下分離方式を採用し、宇都宮市・芳賀町が設備を保有し、宇都宮ライトレールが運行を行います。
<結論>
・費用便益比が1を割ることが確定したが、建設は進んでおり2023年開業が視野に入っている。
・供用後の有効活用で、費用便益比の向上が望まれる。
<ルート>
優先整備区間(2023年3月開業目標)
宇都宮駅東口停留場 (トランジットセンター)
東宿郷停留場
駅東公園前停留場
峰停留場
陽東3丁目停留場
宇都宮大学陽東キャンパス停留場 (トランジットセンター)
平石停留場 追越し線(トランジットセンター) 車両基地隣接
平石中央小学校前停留場
飛山城跡停留場
清陵高校前停留場
清原地区市民センター前停留場 追越し線(トランジットセンター)
グリーンスタジアム前停留場
ゆいの杜西停留場
ゆいの杜中央停留場
ゆいの杜東停留場
芳賀台停留場
芳賀町工業団地管理センター前停留場 (トランジットセンター)
かしの森公園前停留場
芳賀・高根沢工業団地停留場
※トランジットセンター:バスアンドライド(接続バス停留所)、パークアンドライド(駐車場)、タクシー乗り場、サイクルアンドライド(駐輪場)などが整備されます。
<構造>
・JR宇都宮駅東口~国道4号:導入前(車道6車線)⇒導入後(車道4車線)
・国道4号~新4号国道西側付近:導入前(車道4車線)⇒導入後(車道3車線)
・新4号国道西側付近~鬼怒川右岸付近:LRT路線のみ(盛土)
・鬼怒川渡河部~鬼怒川左岸~清原工業団地西端付近:LRT路線のみ(橋梁&盛土)
・清原工業団地西端付近~野高谷町交差点:導入前(車道4車線)⇒導入後(車道4車線)
・野高谷町交差点~市境:導入前(車道4車線)⇒導入後(車道4車線)
<運行形態>
運転時間:午前6時台〜午後11時台(JR宇都宮駅の新幹線の始発・終電に対応)
運転間隔:ピーク時 6分間隔(1時間当たり10本)
オフピーク時 10分間隔(1時間当たり6本)
所要時間(起終点間)
普通電車(各停留場に停車)約44分
快速電車(一部停留場を通過)約37〜38分
<運賃>
150円(初乗り)〜400円(対距離制)
運賃計算の目安
乗車から3kmまで:150円均一
3km〜7kmまで:2kmごとに50円加算
7kmから:3kmごとに50円加算
<延伸構想>
宇都宮市HP資料によると、下記3方面への延伸が構想されている。
・桜通り十文字交差点から西方向(大谷方面)。
・東武宇都宮駅から南方向。
・芳賀工業団地から芳賀町中心部方面。
<事業性>
宇都宮市によると、概算事業費が226億円増の684億円になったこと等が影響し2021年4月に費用便益比が0.73となり、採算が取れない見込みとなっている。2018年に算出した数字は1.07だった。
東京大学公共政策大学院の梶原啓氏、田中輝征氏、半谷芽衣子氏らによる調査結果では、2007年段階で既にLRTの費用便益比の低さが指摘されており、詳細見積もりが十分でなかった可能性がある。
・全体計画区間へのLRT導入と道路投資
B/C高位ケース:1.34 中位ケース:0.88 低位ケース:0.44
・宇都宮駅西側のみへのLRT導入と道路整備
B/C高位ケース:2.77 中位ケース:1.80 低位ケース:0.86
・BRT(Bus Rapid Transit)の導入と道路整備
B/C高位ケース:3.30 中位ケース:2.16 低位ケース:1.10
・道路整備と現状の公共交通支援
B/C高位ケース:5.10 中位ケース:3.50 低位ケース:1.93
※東京大学公共政策大学院 ワーキング・ペーパーシリーズ 都市交通政策における一考察 -宇都宮市-LRT 導入計画を事例として- 梶原啓 田中輝征 半谷芽衣子 2008年3月 より抜粋し、一部修正を加えてあります。
<今後の課題>
宇都宮市と芳賀町が設置した整備効果を検討する専門部会による検証結果を踏まえ、費用便益比を上げる施策を立案し実行する事が求められる。
<まとめ>
・優先整備区間は、2023年3月開業を目標としている。
・2021年に費用便益比が1を割ることが公表されたが、建設工事はかなり進んでおり、中止は無いとみられる。
・供用後に有効な施策を検討し実施する事で、費用便益比を向上させる事が望まれる。
-以上-
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