今回は、2021年3月に事業期間が変更された中央線の複々線化について、東京都環境局のHP資料及びWikipediaの情報を基に検討します。
<概略>
中央本線は、東京都千代田区の東京駅から新宿区の新宿駅、長野県塩尻市の塩尻駅を経由して、愛知県名古屋市中村区の名古屋駅までを結ぶ鉄道路線です。このうち東京駅から塩尻駅間はJR東日本、塩尻駅から名古屋駅間はJR東海の管轄となっています。国土交通省監修の『鉄道要覧』では、本路線のうち東京駅から神田駅の間は重複する東北本線の一部とされています。同様に代々木駅から新宿駅の間は重複する山手線の一部とされています。東京都を走る区間のうち東京駅から高尾駅間の快速が走る路線は、中央線快速と呼ばれており、御茶ノ水駅から三鷹駅間の各駅停車が走る路線は中央・総武緩行線と呼ばれています。
JR東日本が管轄する中央本線のうち、三鷹駅から立川駅間の複々線化は立体交差化と共に事業化されていますが、立体交差化完了後も複々線化は着工に至っていません。その理由は、今後の利用者の需要動向・財源確保の方策等が確定していない事が理由とされています。また、京葉線の中央線方面延伸として、東京駅から三鷹駅まで京葉線を地下で延伸し、三鷹駅において中央線と相互直通運転を行う事で、中央線の東京駅から三鷹駅までの輸送力増強とスピードアップを図る構想もあります。
一方、中央快速線等へのグリーン車サービス導入は、2023 年度末のサービス開始に向け、工事に着手しています。
<結論>
・コロナ後の需要動向と財源確保の動向次第で事業凍結の可能性も。
・複々線化の必要は無くとも、中央線の速度向上は課題として残る。
<計画概要>
複々線化計画の概略は以下の様になっています。
区間:三鷹市下連雀三丁目~立川市錦町一丁目
事業計画区間延長:約13.1km
構造形式:地下式及び地表・掘割式
工事の可能性がある駅:国分寺駅及び西国分寺駅
一期工事によってこの区間の立体交差化はすべて完了しています。
二期工事区間は国分寺駅と西国分寺駅付近を除き、地下構造となる予定です。
<運行パターン>
2009年3月に開かれた、 「三鷹・立川間複々線化検討調査報告書」専門委員会の概要資料によると、以下の3パターンで需要予測がされています。さらに、緩行線と快速線が同一ホームで乗り換えられるかどうかでパターン分けを行っていますが、あくまでも需要予測用で実際の運行パターンではないようです。結論としては、ケース2が最も費用便益比が高いとされています。
・現行(ピーク1時間当たりの運行本数)
緩行線は、全列車が三鷹折り返し。
快速線は、中央線(立川以西)から全列車が直通、青梅線から一部列車(9本/16本)が直通、立川駅始発が1本、武蔵小金井駅始発が2本。
・ケース1(現行の緩行線を立川駅まで延伸)
高架線は緩行線に接続し、緩行線は全列車が立川駅で折り返し。
地下線は快速線に接続し、中央線(立川以西)から全列車が地下線接続、青梅線から一部列車 (11本/16本)が地下線接続。
・ケース2(「青梅線が地下線・緩行線接続」、「中央線が高架線・快速線接続」)
高架線は快速線に接続し、中央線(立川以西)から全列車が高架線接続、武蔵小金井駅始発が6本。
地下線は緩行線に接続し、青梅線(立川以西)から全列車が地下線接続。
・ケース3(「中央線が地下線・快速線接続」、「青梅線が高架線・緩行線接続」)
高架線は緩行線に接続し、青梅線(立川以西)から全列車が高架線接続、武蔵小金井駅始発が6本。
地下線は快速線に接続し、中央線(立川以西)から全列車が地下線接続。
<事業採算性>
2016年に行われた交通政策審議会陸上交通分科会鉄道部会の東京圏における今後の都市鉄道のあり方に関する小委員会における検討結果資料によると、以下の様に見積もられています。
総事業費:3,600億円
輸送密度:593.7~573.3千人/日
ピーク時最大断面輸送量:111.5~106.7千人/h
社会経済的効果:混雑緩和、速達性向上、都市機能の高度化
B/C費用便益比:1.8~1.7
<事業主体>
東京都及び東日本旅客鉄道株式会社
<課題>
今後の利用者の需要動向・財源確保の方策等が確定していない。
<京葉線の中央線方面延伸構想>
概略:東京駅から三鷹駅まで京葉線を地下で延伸し、三鷹駅で中央線と相互直通運転を行う。
区間:東京~三鷹
延長:19.5km
総事業費:4,500 億円
輸送密度:148.1~139.4千人/日
ピーク時最大断面輸送量:25.4~24.0千人/h
社会経済的効果:混雑緩和、速達性向上、都市機能の高度化
B/C費用便益比:1.6~1.4(ただし、事業は黒字化しない予測)
<中央線複々線化の意義>
・混雑緩和
中央線の混雑率は2019年度実績で中野から新宿間が184%と高い水準となっているが、コロナ後の通勤動向と、沿線人口の推移によっては混雑緩和の意義が薄れ、事業凍結となる可能性もあります。
・速度向上
新宿から甲府間の表定速度が時速90kmに満たないことが問題として挙げられています。また、リニア中央新幹線開業後は東京都心から山梨方面への速度優位性が失われる可能性もあります。よって、複々線化が事業性の問題で凍結となった場合でも、別の速度向上策(待避線の新設や線形改良等)が求められる可能性があります。
<まとめ>
・コロナ後の事業性の見極めと予算の確保が課題。
・事業性の見極め如何によっては事業凍結となる可能性も。
・事業凍結となった場合でも、速度向上対策は別途必要。
-以上-
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