今回は、山形新幹線の現状と機能強化についてJR東日本と関係自治体のホームページ資料及びWikipediaの情報を基に検討します。
<概略>
山形新幹線は東京 – 山形・新庄間を結んでいます。福島から山形までの奥羽本線を新幹線車両が直通できるように路線を改良し、1992年に全国新幹線鉄道整備法に基づかない新在直通方式のミニ新幹線として開業しました。1999年には山形から新庄までの区間が延伸開業しています。運行区間のうち福島駅 – 新庄駅間のほとんどが名称の通り山形県内にあります。「新幹線」と案内されているものの、この区間は正式には在来線である奥羽本線の一部であり、この区間で運転される特別急行列車「つばさ」も在来線列車の扱いです。山形新幹線の在来線区間は設備的制約(踏切の存在、130km/hを超える速度での安全設備が未整備、福島・山形県境の急勾配区間の存在)のため、最高速度は130km/hです。また、この区間を走る普通列車には山形線の愛称が付いています。
2020年にJR東日本から新型車両E8 系の新造と、福島駅アプローチ線の新設工事に着手することが発表されました。
<結論>
・E8 系の新造と福島駅アプローチ線の新設は一定の効果を上げるが、山形新幹線の根本的な課題解決には至らない。
・奥羽新幹線との整合性を取りながら、山形新幹線の輸送障害防止対策実施が望まれる。
<主な課題>
・東北新幹線の速度向上で山形新幹線の時間短縮効果が薄れている
東北新幹線にE5系が登場したことで、出発時間帯によってはバスで仙台に行き東北新幹線を利用した方が山形新幹線を待つよりも早く東京に到達する場合があります。
・在来線を活用しているため、輸送障害が発生しやすい
単線区間や踏切の存在、新幹線路線と比較して在来線が雪害、降雨、防風などの災害に弱いことから、他の新幹線と比較して輸送障害の発生頻度が高いという課題があります。
・福島駅での平面交差により輸送障害が他の新幹線へ波及しやすい
福島駅で東北新幹線の列車と増解結を行っていますが、東北新幹線と奥羽本線とのアプローチ線が福島駅の下り副本線(待避線)から単線で分岐する構造のため、福島駅付近が単線になっていると共に、東北新幹線の上り線は福島駅構内で下り本線と二度平面交差する必要があることから、特に降雪で遅れが生じる冬期は福島駅付近での輸送障害が他の新幹線に波及するという問題が生じている。
<着手された対策>
・新型車両E8 系の新造
2024 年春から山形新幹線用のE8 系新幹線車両を順次投入し、東北新幹線の宇都宮~福島間において、E5 系と併結し300km/h 運転を目指します。
編成数:7 両編成×17 編成
運転開始時期:2024 年春
運転区間:山形新幹線および東北新幹線
営業最高速度:300km/h
編成定員:355名(普通:329名、グリーン:26名)現状より減少
一定の速度向上が見込めるが、東北新幹線の速度が更に向上した場合は更なる速度度向上が求められる可能性があります。
・福島駅アプローチ線の新設
輸送障害時のダイヤ復旧時間短縮を目的として、福島駅において、在来線(奥羽本線)と新幹線上りホームを結ぶアプローチ線を新設する工事に着手します。この工事が完了すると、東北新幹線との平面交差が解消します。
工事概要
土木・軌道工事
高架区間(橋りょう、盛土新設)、地平区間(切土、路盤新設)、軌道敷設
電気工事
電気設備(踏切・案内サイン)改良等
使用開始:2026 年度末(予定)
<構想中の対策>
・奥羽新幹線を見据えた福島~米沢間の(板谷峠)トンネル整備
JR東日本は山形新幹線の運休や遅れにつながる大雨、豪雪対策について、2017年までの2年間で福島 – 米沢間の対策調査を実施しました。調査結果によると、県境部にトンネルを掘削する場合、現在の山形新幹線を前提とした事業費を1500億円と見積もり、山形県知事が要請していた将来のフル規格新幹線に対応可能なトンネル断面に広げる場合は120億円の増額と試算しています。この結果を踏まえ、同年12月1日に山形県知事はJR東日本に対しトンネル整備の早期事業化を要望したが、実現の目途は立っていない。
・速達性向上及び安定輸送の確保
山形県は、東北新幹線区間の停車駅の見直しによる東京~山形・新庄間の所要時間の短縮や在来線区間(関根駅~赤湯駅間等)の速達性向上のための複線化を要望しているが、実現の目途は立っていない。
・在来線区間における安定輸送の確保等
山形新幹線の安定輸送確保のための取組みとして、山形県は降雨量により運転が規制される区間の防災対策の強化、大雪や強風に対する安全対策の推進、人身事故や動物との衝突等の未然防止対策の強化等を要望している。
<延伸構想>
・大曲延伸98.4km
新庄駅から大曲駅までの延伸が沿線自治体で論議され、山形新幹線大曲延伸推進会議が結成されました。しかしながら、秋田県で奥羽・羽越新幹線整備促進期成同盟会が設立され、今後は県を挙げてフル規格新幹線整備実現に向けた取組を進めていくことになったことから、2017年に解散しました。このため現在はミニ新幹線による大曲延伸のための活動は行われていない。
・酒田延伸55.2km
2000年頃から庄内地方への延伸が検討され、2006年3月に山形県は山形新幹線の庄内(酒田)延伸と羽越本線高速化についての調査結果を山形県議会に報告し、時間短縮、費用対効果の観点から新幹線延伸より、羽越線高速化が有効と結論づけました。2015年頃から再度地元の機運が高まり、酒田市による「山形新幹線庄内延伸」の事業可能性の検証結果が公表されましたが、2017年以降はフル規格新幹線を求める機運が山形県内で高まりを見せたため、現在は目立った活動は行われていません。
酒田市による検証結果概要
概算工事費:約 350 億円
到達時間:酒田~東京 3:50(▲31分)
費用対効果(B/C):1.2
<まとめ>
・E8系の導入で到達時間の短縮効果は見込めるが、東北新幹線の速度が更に向上した場合は更なる速度向上が求められる。
・「福島駅アプローチ線の新設」で福島駅での平面交差は解消されるが、在来線を活用していることによる輸送障害の多さを根本的に解消するには至らない。
・奥羽新幹線との整合性を取りながら、山形新幹線の輸送障害防止対策を着実に進めていくことが望まれる。
―以上―
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