前回に引き続き2021年6月に関係6県合同プロジェクトチームから調査結果が公表された奥羽新幹線について、Wikipediaと羽越・奥羽新幹線の早期実現に向けた費用対効果算出等業務 調査報告書の情報を基に検討します。
<概略>
奥羽新幹線は、福島県福島市から山形県山形市附近を経由し、秋田県秋田市までを結ぶ計画の新幹線基本計画路線です。
1973年11月15日に全国新幹線鉄道整備法の第四条第一項の規定による『建設を開始すべき新幹線鉄道の路線を定める基本計画』により告示された新幹線の基本計画路線の一つであり、将来構想では東北新幹線の東京駅 – 福島駅間と、羽越新幹線の秋田駅 – 新青森駅間と一体となって運用される計画です。
今回の検討では、東京駅 – 秋田駅間の検討結果のみを取り上げます。
<結論>
・これまでに建設された整備新幹線と同等の仕様で建設すると採算ラインを割る。
・当面の間は、山形新幹線と秋田新幹線が継続してその機能を代替する。
<ルート>
公表された調査報告書では、東北新幹線(既設区間)を経由する「東京駅 ~(福島駅・山形駅経由)~ 秋田駅」のルートについて検討されています。東京駅~秋田駅間の運行区間は、全延長520.7km、駅数は15駅、駅間は14区間となり、駅間の平均距離は37.2kmです。また、既設区間を除く新設延長は265.6kmとなり、既設区間を除いた駅間距離最長区間は新庄駅~湯沢駅間48.1km、駅間距離最短区間は米沢駅~赤湯駅間15.7kmとなります。
既設区間:東北新幹線の東京駅~福島駅間。共用区間の延長(実キロ)は255.1km(既存駅内を含む)。
・東京駅(既設: 2面4線)所在地:千代田区 累計キロ:0.0 速達停車
・上野駅(既設: 2面4線)所在地:台東区 累計キロ:3.6 速達通過
・大宮駅(既設: 3面6線)所在地:さいたま市 累計キロ:31.3 速達停車
・宇都宮駅(既設: 2面2線)所在地:宇都宮市 累計キロ:109.0 速達通過
・郡山駅(既設: 2面3線)所在地:郡山市 累計キロ:213.9 速達通過
・福島駅(既設: 2面4線)所在地:福島市 累計キロ:255.1 速達停車
・米沢駅(新設: 2面2線)所在地:米沢市 累計キロ:290.7 速達通過
・赤湯駅(新設: 2面2線)所在地:南陽市 累計キロ:306.4 速達通過
・山形駅(新設: 2面4線)所在地:山形市 累計キロ:333.9 速達停車
・さくらんぼ東根駅(新設: 2面2線)所在地:東根市 累計キロ:354.5 速達通過
・新庄駅(新設: 2面2線)所在地:新庄市 累計キロ:393.2 速達通過
・湯沢駅(新設: 2面2線)所在地:湯沢市 累計キロ:441.3 速達通過
・横手駅(新設: 2面2線)所在地:横手市 累計キロ:459.2 速達通過
・大曲駅(新設: 2面2線)所在地:大曲市 累計キロ:478.0 速達通過
・秋田駅(新設: 2面4線)所在地:秋田市 累計キロ:520.7 速達停車
<検討条件>
・運行本数
東京 – 秋田:片道32本/日
速達タイプと各駅タイプの本数比率:1対1
・明かり区間(橋梁・高架橋)新規区間:169.6km
地形図上から、市街地及び平野部となる部分については「明かり」区間と仮定している。
・トンネル区間 新規区間:93.1km
地形図上から、山間部を通過する区間については「トンネル」区間と仮定している。
・駅部 2.9km
列車編成:8両編成
速達タイプ停車駅:2面4線(駅部区間:700m)
各駅タイプ停車駅:2面2線(ホーム長:210m)
<時間短縮効果>
・時間短縮効果(最高速度320km/h)
福島駅~秋田駅間:2時間33分→1時間5分
福島駅~山形駅間:1時間1分→22分
山形駅~秋田駅間:3時間23分→42分
<効率的な整備概略>
・単線による整備
整備新幹線の路線はこれまで複線により整備されていますが、駅での列車交換など一部区間を除き単線による整備を行う想定です。単線整備となる区間延長に応じた工事費の縮減が期待されます。
・地平整備、盛土(路盤)による整備
新幹線の明かり区間(橋梁を除く)については、基本的に高架橋構造が用いられていますが、市街地を外れた建築物等の少ない土地部かつ交通流動の少ない場所等については路盤構造(切土・盛土等)を検討する想定です。これにより高架橋に比べて建設費等のコスト縮減が期待されます。
・ハイブリット駅舎
高架橋に設けられる駅において、上屋等の上部建築構造物をすべて土木構造物で支えるのではなく、荷重の大きな軌道部分が集中する中心付近のみを土木構造物で支え、外側については建築構造物で支える想定です。これにより従来駅舎と比較しコスト縮減が期待されます。
・車両のスリム化
奥羽新幹線区間においては、山形新幹線及び秋田新幹線の運行区間と一部重複することから、現在使用されているミニ新幹線(つばさ(E3系)やこまち(E6系))を奥羽新幹線の運行に活用することも想定されます。これにより既存車両の活用による新たな車両導入費用の縮減が期待されるほか、車体断面が小さくなることによりインフラ構造物の規模縮小に伴うコスト縮減等が期待できます。また新在直通車両は、新幹線区間の25kV、在来線区間の20kV架線電圧両方に対応しており、車体断面が小さいことから、現在の山形新幹線及び秋田新幹線の既存駅に直接乗り入れることが可能となるなど、既存ストックの有効活用も併せて期待されます。
<事業採算性>
・展望パターン
総便益 基本:5,802億円 効率的な整備①:6,087億円 効率的な整備②:6,087億円
総費用 基本:8,860億円 効率的な整備①:7,052億円 効率的な整備②:6,779億円
B/C 基本:0.65効率的な整備①:0.86 効率的な整備②:0.90
・ベースパターン
総便益 基本:4,415億円 効率的な整備①:4,700億円 効率的な整備②:4,700億円
総費用 基本:8,860億円 効率的な整備①:7,052億円 効率的な整備②:6,779億円
B/C 基本:0.50 効率的な整備①:0.67 効率的な整備②:0.69
<今後の課題>
・更に建設費を削減できる方策を導き出せるかどうか。
・既存の山形新幹線と秋田新幹線の有効活用。(奥羽新幹線建設までの間)
<まとめ>
・今回の調査の結果、現状の整備新幹線と同じ枠組みで建設することは採算面から不可能であり、羽越新幹線よりも採算が悪いことが分かった。
・建設する新幹線路線の仕様を更に落として事業採算性をプラスにできるかどうかが今後の検討課題。
・当面建設は難しいため、既存の山形新幹線と秋田新幹線の有効活用も検討すべき。
-以上-
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