今回は2021年6月に調査結果がまとめられた熊本空港アクセス鉄道について、熊本県ホームページの資料と調査結果概要資料に基づき検討します。
<概略>
この路線は、熊本市中心部と阿蘇くまもと空港間のアクセス改善のため、JR豊肥本線「三里木駅」から分岐ルートを建設し、県民総合運動公園を経由して阿蘇くまもと空港に至るアクセス鉄道を建設する構想です。
事業スキームは、県が中心に設立する第3セクターが鉄道施設を整備して所有し、運行はJR九州へ委託する計画です。事業費は、アクセス鉄道の開通後にJR九州が既存路線増益効果の一部を第3セクターに支出する形で、整備費の3分の1を回収。残りは、国と地方自治体の補助金で賄う計画です。
<結論>
・着工できるかどうかは国の補助金頼み(現行制度では難しい)
・先ずはリムジンバスの増便、容量拡大や速度向上策を実施するべきでは?
<必要性>
熊本駅と空港間を結ぶ公共交通機関は現状バスのみであり、通常60分ほどかかりますが、朝夕のラッシュ時には90分かかることもあります。また、バスが満員で乗車できない状況も発生しています。近年は外国人観光客が増加しており、今後は民間企業による空港運営事業の開始(2020年4月)や空港ターミナルの拡張により航空路線網の拡大等が図られ、更に空港利用者が増加すると見込まれています。そのため、定時性、速達性、大量輸送性に優れた交通システムが求められています。
<効果>
熊本県の調査結果概要書には、以下様な8つの効果が挙げられています。
・阿蘇くまもと空港及び周辺への交通アクセス改善
・熊本県民総合運動公園及び周辺地域への交通アクセス改善
・新たな観光ルートの形成・観光誘客の推進
・企業立地の価値向上
・高齢者・障がい者等の外出機会増加
・防災機能の向上
・慢性的な道路渋滞の緩和
・環境への負荷軽減
<方式の検討>
2018年度に「鉄道延伸」「モノレールの新設」「熊本市電延伸」の3つの交通システムについて、定時性、速達性、大量輸送性、事業費等の比較検討を実施しました。比較検討の結果、速達性や大量輸送性に優れ、事業費を相対的に低く抑えることができ、採算性が見込める「鉄道延伸」が早期に実現できる可能性が高いとの結論を得ました。
・検討した交通システム
鉄道:JR豊肥本線の延伸
定時性:〇 速達性:〇 大量輸送性:〇 概算事業費:330億円~380億円
モノレール:熊本駅と空港を結ぶ路線の新設
定時性:〇 速達性:〇 大量輸送性:〇 概算事業費:2,500億円~2,600億円
市電:健軍町電停から空港への延伸
定時性:〇 速達性:× 大量輸送性:× 概算事業費:210億円~230億円
<ルートと構造>
2019年~2020年度にわたる調査の結果、JR豊肥本線の「三里木駅」から県民総合運動公園を経由して阿蘇くまもと空港を最短距離で結ぶルートが本命となっており、通過する国道57号沿線の密集市街地を地下トンネルで通過する計画です。
路線は単線を計画しており、三里木駅は島式ホームを一面追加して島式ホーム2面3線とし、中央の路線を空港アクセス専用の折り返し線とする計画になっています。中間駅は、相対ホーム2面2線ですれ違いのできる構造が計画されています。終点駅は、島式ホーム1面2線が計画されています。
<事業採算性>
先ず、前提条件を見ていきます。建設期間は8年間で、推計に使用した開業時期は2033年末です。資金計画では、出資金を建設費×20%としています。補助金は2パターンあり、ケース①は空港アクセス鉄道等整備事業補助を受けた場合。(国18%,県18%)ケース②は総事業費に対し国30%,県30%の補助を受けた場合を想定しています。借入金は総事業費から補助金と出資金を差し引いた金額です。収入の運賃は三里木 – 空港間で420円、三里木 – 中間駅間で:220円、中間駅 – 空港:300円に設定しています。JR拠出金は、空港アクセス鉄道開業後、JR九州の既存路線で生じる増益額の一部を総事業費(税込)の1/3を上限に計上しています。(今後JR九州との協議が必要になります。)支出の人件費はJR九州等の平均単価を用いて設定し、営業経費はJR九州等の単価を用いて設定しています。事業費は435~450億円、需要予測は5,000人/日と見積もっています。
2020年度調査の結果、現行制度の補助割合(国補助18%、県補助18%)では本事業は黒字化しないことが分かりました。国と県の補助割合をそれぞれ1/3に増額すれば、33年で黒字転換するため、熊本県は、国に補助割合を高める働きかけ強めて行くものとみられます。費用便益比は、30年以上で1.0を上回っています。しかし、スムーズに着工にこぎつけたとしても、工事期間は8年必要で、開業は2033年頃と見積もられています。
<今後の課題>
・土木工事等に関する詳細の検討(路線構造や駅周辺の開発など。)
・需要予測や収支採算性に関する詳細の検討(国の補助増額がカギ。)
・需要の拡大に向けた施策の検討
<まとめ>
・現行制度では黒字化できない(事業性が無い)ため、国の補助を増額できるかどうかが着工へのカギを握るが、簡単には国の予算を引き出せないものとみられる。
・熊本県の調査結果概要書の試算条件である2033年の開業は非常に難しい。
・向こう10年近くは完成しない見込みのため、先ずはリムジンバスの増便、大容量化や速度向上策を考えるべき。
-以上-
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